本研究は、遺伝的ストレス脆弱性を有する遺伝子突然変異マウスをモデル動物として活用し、特定の養育者との安定した関係構築の重要性を明らかにすることを目的とした。 初年度から次年度では、通常マウスを用いて、生後から離乳まで、産みの親以外のメスマウス間を毎日移動しながら育った仔マウスの表現型を調べた。身体的発達、および、行動への影響を評価したが、いずれの項目においても影響は認められなかった。しかし、毎日の移動に加え、尾への外傷を受けたマウスでは、体重増加の遅延、社会性行動が変化した。これらの影響は、特にメスにおいて顕著であった。 次年度から最終年度では、内分泌系への影響を調べるため、血中コルチコステロン値を評価した。その結果、毎日の移動に加え、尾への外傷を受けたメスマウスにおいて、血中コルチコステロン値が高い値を示した。また、養育期間中、仔マウスが受ける養育の質と時間を検討した。その結果、全ての仔マウスは、十分な養育を受けていることが確認された。従って、毎日の移動に加え、尾への外傷を受けたマウスに認められた変化は、授乳や保温時間の低下に起因しないことが明らかとなった。 以上のことから、特定の親が不在であるという環境は、仔の発達へ影響しない。ただし、外傷などのストレスが加重されると、遺伝的ストレス脆弱性を持たないマウスであっても、特にメスにおける身体的発達、行動、コルチコステロンレベルへ影響することが明らかとなった。従って、特定の親が不在であるという環境は、ストレス脆弱性を構成する環境要因となり得る可能性が示された。 一方、ストレス脆弱性を示す遺伝子突然変異マウスにおいては、仔を十分に取ることが困難であり、仔を毎日移動させる実験の着手には至らなかった。しかし、妊娠率低下、発情周期異常の傾向を示すことが明らかとなり、突然変異を起こしている遺伝子Usp46が繁殖機能に関与する可能性が示された。
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