研究課題
本研究で使用するヒト化マウスはヒト血球系細胞を有するマウスであり、HTLV-1感染によってリンパ球増殖を含む全身性の病態が再現されているが、ウイルス特異的な免疫応答の再構築は部分的である。よりヒトに近い感染状態を再現するHTLV-1キャリアモデルの確立のためには、宿主免疫応答能を改善し、その効率的な誘導が不可欠と考えられる。本研究課題ではHLA-A*02:01遺伝子をMHCクラス Iプロモータの制御下で発現させた重度免疫不全トランスジェニックマウス (NOG-HLA-A2 Tg) に対してHLA-Aアリルが一致する造血幹細胞を移植することで新たなヒト化マウスを作出し、HLA拘束性のヒト型免疫応答の誘導を試みる。本年度は、昨年度までに作製した新規ヒト化マウスに対してHTLV-1を感染させ、個体内の血中ウイルス量、細胞表現型、および免疫応答について解析した。HTLV-1が感染した3個体のうち、1個体で顕著な血中ウイルス量と細胞増殖の抑制が観察された。これらの3個体のウイルス特異的免疫応答を解析したところ、ウイルス量が抑制されていた個体でのみHLA-A2拘束性のHTLV-1 Tax特異的CTLが誘導されていた。同HTLV-1 Tax特異的CTLは血中、骨髄では低頻度であったが、リンパ臓器では高頻度 (全CD8 T細胞中の6.3%~12.1%) に存在していた。次年度では解析個体数を追加し、データの信頼性・再現性向上を目指す。また、本マウス系統は自然繁殖による個体数増加が困難であるため、体外受精での個体生産を実施している。自然繁殖群と体外受精群のHLA-A2発現量を比較検討したところ、遺伝子型がhomo個体では発現量に差は認められなかったものの、hetero個体では体外受精群で有意に低値を示した。本手法で個体生産する場合はhomo個体に限定することが望ましい。
2: おおむね順調に進展している
新規ヒト化マウスを作製しHTLV-1を感染させた。3個体中1個体でHLA-A2拘束性のHTLV-1 Tax特異的CTLの誘導が確認された。HTLV-1 Tax特異的CTLは血中、骨髄では低頻度であったが、リンパ臓器では高頻度に存在していた。また、より効率的な個体数増加を期待して、自然繁殖によるコロニー維持と共に体外受精法を用いて個体生産を実施した。遺伝子型がhomo個体では自然繁殖群と体外受精群の間でHLA-A2発現量に相違無く、より効果的な実験群の作製が可能となった。
本年度の検討によって体外受精法を用いた効率的な個体生産が可能となった。今度はHTLV-1感染個体数を増やし、解析数を重ねることでデータの信頼性・再現性向上を目指す。また、新規ヒト化マウスにおけるHTLV-1感染による特異的CTL応答の頻度は低いため、この要因解明を試みる。CTLが誘導された個体では血中プロウイルス量が低値に抑制されており、HTLV-1の潜伏感染状態が再現されている可能性が考えられる。
年度末納品等にかかる支払いが令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
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