研究課題/領域番号 |
19K16036
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 雄介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50814448)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | エピジェネティクス / 代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、環境刺激によりもたらされる影響がどのように次世代に伝達されるかという問題に対し、生殖細胞および次世代の初期胚におけるエピゲノム変化に着目して研究を行う。具体的には、ゲノム科学の優れたモデル生物であるメダカを用い、父親個体に対する高脂肪食投与が生殖細胞にどのようなエピゲノム変化をもたらし、受精後のリプログラミング過程においてどのような消長を示すかを、ChIP-seqやsmall RNA-seq等の手法を用いて明らかにすることを目指す。 2019年度は父親個体に対する高脂肪食投与の影響が次世代個体に遺伝することを検証する実験を中心に行なった。まず、高脂肪食またはコントロール食下で育てた雄個体から生まれた仔の間で、肝臓における代謝状態に差があるかを調べた。まず肝臓の組織像観察を行ったが、父親高脂肪食投与郡においても脂肪の蓄積や炎症等の表現型変化は検出されなかった。また肝臓のRNA-seqも行ったが、発現変化がみられた遺伝子数は極めて少なく(22個、padj < 0.1)、またバッチ間の再現性も低かった。一方、リプログラミング直後においてクロマチン状態に差があるか調べるために、次世代の胞胚期の胚についてATAC-seqを行ったが、父親個体の高脂肪食投与の有無による差は全く見られなかった。以上から、現時点では父親個体に対する高脂肪食投与の影響が次世代個体に遺伝することを検証できていない。 遺伝現象が確認できない理由の一つとして、高脂肪食投与後の親個体の表現型が均一でない点が挙げられた。そこで、個体差が生じにくい飼育条件を再検討したり、血糖値や脂肪肝の進行具合に関して一定基準を満たした個体の選別を行ったりすることで、この問題を解決することを試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度の計画では、高脂肪食投与による影響が次世代個体に遺伝することを確認したうえで精子・初期胚のエピゲノムデータの取得を開始する予定であったが、現時点では次世代個体の表現型変化の検証を達成できずにいる。この原因の一つとして、高脂肪食投与後の親個体の表現型が均一でない点が考えられた。したがって、親個体の飼育条件を再度検討する必要性が生じたため、2019年度の後半はこの問題点の解決に時間を大いに要した。なお、メダカを個飼い(1個体/1タンク)・恒温条件下で飼育することで、個体差が抑えられることを見出している。
|
今後の研究の推進方策 |
高脂肪食投与の影響が次世代に遺伝することを検証することが急務である。昨年度の研究より親個体の表現型の個体差を抑える飼育条件を見出すことができたが、さらなる厳密化を図るために、血糖値や脂肪肝の進行具合に関して基準を設け、基準を満たした親個体のみを選別することを検討している。このようにして選別した親個体から次世代個体をサンプリングし、代謝器官の組織像観察や肝臓のRNA-seqを行うことで、表現型変化の検出を試みる。複数回試行したうえで一貫性のある表現型変化を同定し次第、生殖細胞や次世代の初期胚のエピゲノムデータの取得を開始する。 しかし、上記の点を解決してもなお父方の遺伝現象が検出できない可能性がある。その場合は、母方の遺伝現象に対象を切り替えて研究を行うことも検討している。実際、予備的なデータではあるが、高脂肪食を投与した母親個体から生まれた次世代個体はコントロール郡と比べて肝臓に中性脂肪が蓄積されやすい傾向を見出している。なお母方に着目する場合、対象とすべき因子はエピゲノムのみならず卵黄や受精卵の代謝産物、母性mRNAなど多岐にわたる。どの因子に重点を置くかについては、次世代個体の表現型変化を同定したうえで検討する。
|