研究課題/領域番号 |
19K16038
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
茶谷 悠平 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任助教 (30794383)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リボソーム / 新生ポリペプチド鎖 / タンパク質合成 / アイソフォーム / 翻訳 |
研究実績の概要 |
DNAにコードされる遺伝情報はmRNAへと転写されたのち、細胞内装置リボソームによってポリペプチド鎖(タンパク質)へと翻訳される。新規合成されるポリペプチド鎖(新生鎖)は、リボソーム大サブユニットのトンネルを通過しつつ合成される。その際トンネルと新生鎖間の相互作用によって、様々にリボソーム機能は制御される。代表研究者は過去に、負電荷アミノ酸連続クラスターの翻訳によってリボソーム複合体が不安定化するIRD (Intrinsic Ribosome Destabilization)現象を発見した。同現象について解析を進めたところ、IRDは翻訳の途上終結だけでなく、mRNA配列の読み飛ばし(ホッピング)も誘発していることが明らかとなってきた。これらの翻訳動態は、いずれも本来の開始コドンと終始コドンにより定義されるORF通りのタンパク質とは別の、新たなタンパク質アイソフォーム形成に寄与している可能性がある。上記の可能性を検討する目的で本年度は、1. IRDによる翻訳途上終結頻度は上昇するが、ホッピング頻度は減少する大腸菌bL31欠損株のリボソームプロファイリング解析、2. 配列解析から浮上したIRD依存的にマルチアイソフォームを形成する候補遺伝子の個別解析を行った。リボソームプロファイリングでは、IRD依存的に発現調節を受ける数十の大腸菌遺伝子群を同定した。個別解析からは、ある大腸菌遺伝子オペロンにおいてIRD依存的に+2 フレームシフトが発生していること、同現象は過去に報告されているバクテリオファージ遺伝子でのホッピング現象と複数の共通項を有していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リボソーム が翻訳するmRNA領域をゲノムワイドに記述するリボソームプロファイリング解析を行い、IRD依存的ホッピングによってmRNAの被翻訳領域が拡張されるか、また遺伝子発現調節にIRDが利用されるかを検討した。大腸菌bL31欠損株について解析したところ、大規模な遺伝子発現変動が発生していること、またそれらのいくつかはIRD依存的翻訳調節を受ける遺伝子群の存在が明らかとなった。 並行して配列解析からピックアップした候補遺伝子群についての個別解析を進めた結果、単一mRNAとして発現し、オペロン構造を形成する大腸菌遺伝子A-B (解析中のため、名称を伏せさせていただく)間で、IRD依存的に+2 フレームシフトが発生していることが明らかとなった。この現象は、ホッピング現象を引き起こすバクテリオファージ遺伝子と、1. IRD依存性、2. Shine-Dalgarno配列依存性、3. リボソーム複合体自体の安定性への依存など複数の共通項が確認され、同一のメカニズムで発生しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リボソームプロファイリングで得られたデータについてさらに精査し、mRNA翻訳領域が拡張、ないし短縮される遺伝子について引き続き探索し、解析を進める。 並行して進捗状況に記載した、ホッピング現象と+2フレームシフトの共通項を参考に、モデル系で同現象の再現を試みる。モデル系での実験が順調に推移し、ホッピング発生の必要十分条件が明らかになった場合、その条件を満たす配列が大腸菌をはじめとするバクテリア、あるいはバクテリオファージにどの程度出現するか、配列解析とリボソームプロファイリングの結果を参照しつつ検討を行い、ホッピングによるタンパク質レパートリー拡張の全体像を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に解析用PCの調達を別予算で行い、残予算を実験消耗品に充てたため次年度使用額が生じた。次年度使用額1,524円は「今後の研究の推進方策」に記載したように、リボソームプロファイリングのさらなる解析と、配列解析から見出した候補遺伝子の個別解析に使用する。
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