研究実績の概要 |
通常、一種類のmessenger RNA (mRNA)からは一種類のタンパク質が合成される。しかし、mRNAを翻訳するリボソームの機能が制御されることで、複数種のタンパク質が合成される場合がある。本研究では、合成途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)の負電荷アミノ酸クラスターが誘導する、リボソーム複合体の不安定化を駆動力としたmRNAの読み飛ばし現象(ribosome hopping)に着目して研究を行った。Ribosome hoppingでは、リボソームがmRNAの翻訳を一時中断し、mRNAを読み飛ばした後に再開することで、二つの分断されたopen reading frame (ORF)を一つなぎのポリペプチド鎖として合成する。同現象はこれまでウィルス遺伝子特異的な現象と考えられていたが、我々の研究から大腸菌内在遺伝子でも発生していることを明らかにし、ウィルス遺伝子と内在遺伝子間での共通項を見出した。それらの共通項(新生鎖の負電荷アミノ酸クラスター、翻訳停滞シグナル、Shine-Dalgarno配列)を備えた配列を人工的にデザインし、大腸菌内で合成させたところ、hopping現象がウィルス遺伝子などと同様に発生していることを確認し、hopping現象を再構成することに成功した。また同系を用いた実験を拡張したところ、hopping現象は数十ヌクレオチドのmRNA読み飛ばしだけでなく、+1, +2フレームシフト現象の駆動力ともなっていることを見出した。上記のように様々な非典型的翻訳の駆動力となりうる負電荷アミノ酸クラスターは、大腸菌などの原核生物のみならず、出芽酵母、ヒトなど真核生物の遺伝子配列中に多数(全遺伝子の50%以上)見られることから、本研究の対象であるタンパク質レパートリーの拡張は、当初の予想を超えて発生している可能性が浮上した。
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