研究課題/領域番号 |
19K16039
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 健太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 研究員 (60837128)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Homologous Recombination / Rad51 / Dmc1 |
研究実績の概要 |
相同組換えの中心的な反応は、単鎖DNAとこれに相同な二重鎖DNAとの間で起こるDNA鎖交換である。この反応は進化的によく保存されたRecAファミリーリコンビナーゼによって触媒されるが、リコンビナーゼが相同配列を見つけ、鎖を交換して新たなヘテロ二重鎖を形成する過程の分子機構は依然として不明である。 本研究を実施するまでに申請者は分裂酵母Rad51によるDNA鎖交換反応をリアルタイムで解析する系を確立し、この反応が2種の中間体(C1とC2)を経て3段階で進行することを明らかにした。更に、初期中間体C1と後期中間体C2の遷移の間に捕捉された二重鎖DNA中の相補鎖がRad51-単鎖DNA複合体中の単鎖DNAと対合、即ちヘテロ二重鎖を形成していることを示した。 令和元年度は、この反応のそれぞれの段階の分子機構の詳細を明らかにするために、Rad51のDNA結合部位変異体を作製して上記の手法を用いて解析を行った。Rad51には単鎖DNAとの複合体を形成する際の軸に位置するDNA第一結合部位、Rad51-単鎖DNA複合体が相同鎖検索のために無作為に二重鎖DNAを捕捉する際に働くと考えられている第二結合部位があり、第一結合部位には更に進化的に保存されたL1とL2と呼ばれる2つのモチーフがある。そこで、3種のDNA結合部位の変異体を作製して解析を行った。その結果、L1モチーフはDNA鎖交換反応の際のC1中間体の形成に重要で、一方L2モチーフはC1からC2中間体への遷移すなわちヘテロ二重鎖形成に重要であることが明らかになった。また、第二結合部位はDNA鎖交換反応の際の無作為な二重鎖DNAの補足だけでなくRad51の単鎖DNAへの会合にも重要だったことから、第二結合部位はRad51がDNAと複合体を形成する際のエントリーゲートであることが明らかとなった。これらの結果をまとめて論文が現在印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、Rad51のDNA結合部位の変異体を生物物理的手法を用いて解析することによってRad51のDNA結合部位がそれぞれどのように協調して相同DNA配列の検索とヘテロ二重鎖の形成を行なっているかを明らかにすることができた。また、真核生物には体細胞分裂期と減数分裂期の両方で働くRad51だけでなく、もう一つ減数分裂期特異的に働くDmc1というリコンビナーゼが存在することが知られている。令和元年度は更にDmc1をリアルタイム実験系で解析を行う準備を完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究から、DNA鎖交換の一番重要な反応段階であるヘテロ二重鎖形成にRad51のDNA第一結合部位のL2モチーフが重要であることがわかった。また、L2モチーフのアミノ酸配列を真核生物の体細胞分裂期と減数分裂期の両方で働くRad51と減数分裂期特異的に働くDmc1の2種のリコンビナーゼで比べたところRad51はQVDG、Dmc1はDPGAとそれぞれのリコンビナーゼの間で進化的に保存された部分があった。 また、近年Rad51とDmc1の2種のリコンビナーゼの生化学的解析からDmc1はRad51よりも相同性の低い配列間でもDNA鎖交換反応を行うことができこのDmc1の活性が減数分裂期の遺伝的多様性に重要な役割を果たしているのではないかと考えられている。しかし、この生化学的活性の違いが何に起因するかはわかっていない。そこで、L2モチーフのアミノ酸配列の違いが2種のリコンビナーゼの活性の違いに重要であると予想してL2モチーフをRad51とDmc1で入れ換えたキメラRad51とDmc1変異体をリアルタイム実験系を用いて解析することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は国内学会の年会に3度行く予定であったが、いずれも個人的理由で出場がかなわなかったため繰越し金が発生した。当該年度の繰越し金は、実験に重要であるオリゴDNAの購入に使用しようと計画している。
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