研究課題/領域番号 |
19K16045
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
今井 裕紀子 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 博士研究員 (00814782)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 相同組換え / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、減数分裂期の組換え開始における「ゲノム・エピゲノム情報」と「染色体構造」の役割を明らかにすることである。減数分裂期の組換えはホットスポットにおける部位特異的なDNAの二重鎖切断(DSB:Double Strand Breaks)によってはじまる。多くの有生生物においてホットスポットに特徴的なDNA配列やエピゲノム修飾などの「ゲノム・エピゲノム情報」が同定されているが、ホットスポット特異的にDSBを引き起こすメカニズムは未知である。 ゼブラフィッシュとヒトの精子形成ではDSBに加えて、減数分裂特有の染色体構造である染色体軸がテロメア近傍から形成される。最近我々は、染色体軸の構造因子の変異体ゼブラフィッシュでは、DSBマーカーがほとんど見られないことを発見した。このことは、染色体軸の形成がホットスポット特異的なDSBの誘導に関わる新たな可能性を示唆しているが、このような「染色体構造」によってのみホットスポットが決まるのか、それともホットスポット特有の「ゲノム・エピゲノム情報」と協働してDSBの制御を担うのか不明である。本研究では、減数分裂の新規モデルであるゼブラフィッシュを用いてDSB部位とヒストン修飾のゲノムワイドマッピングを行い、DSBホットスポットの「ゲノム・エピゲノム情報」の同定を目指す。これらの情報を野生型と染色体軸の形成が異常となる変異体ゼブラフィッシュで比較することで、「染色体構造」の変化と「ゲノム・エピゲノム情報」のそれぞれが、部位特異的なDSB形成に与える影響を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
- 組換えタンパクDmc1のクロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP-seq)によるDSBのゲノムワイドマッピングは、ゼブラフィッシュでは前例がないため、2018年度科研費・研究活動スタート支援(18H06057)を受けた先行研究において、抗ゼブラフィッシュDmc1抗体の検討を行った。そこで得られたモルモット抗ゼブラフィッシュDmc1抗体を用いてゼブラフィッシュ精巣における条件検討を行い、Dmc1 ChIPプロトコルを確立した。 - ホットスポットのエピゲノム修飾として、進化的に広く保存されたDSB部位のヒストン修飾であるトリメチル化ヒストンH3リジン4(H3K4me3)に着目し、ゼブラフィッシュ精巣と抗H3K4me3抗体を用いたChIP条件検討を行った。H3K4me3は、転写活性の高いプロモーターの修飾でもあることから、減数分裂期に発現する遺伝子の転写開始領域をコントロールとして定量的PCRを行い、H3K4me3 ChIPがうまくいっていることを確認した。これにより、ゼブラフィッシュ精巣を用いたH3K4me3 ChIPのプロトコルを確立した。 - ゼブラフィッシュ精母細胞における染色体軸の形成はテロメア近傍で始まることから、減数分裂期に起こる核膜-テロメア接着が染色体軸の形成に関わる可能性に着目した。先行研究において作製した核膜-テロメア接着の変異体2系統について免疫細胞化学による表現型解析を進めた。その結果、減数分裂期テロメア複合体の構成因子であるTerb2の変異体の精母細胞では、野生型に比べて多く、短い染色体軸に加えて、DSBマーカーであるDmc1 fociの増加が観察された。従って、terb2変異体では異所的な染色体軸の形成が起きていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に確立したプロトコルを用いて、野生型のゼブラフィッシュ精巣からDmc1 ChIPとH3K4me3 ChIPをそれぞれ行い、次世代シークエンス解析を行う。Dmc1 ChIP-seqの結果から、正常な減数分裂におけるDSB部位をゲノムワイド・配列レベルで同定し、詳細なDSBマップを得る。さらに、H3K4me3 ChIP-seqの結果から、Dmc1 ChIP-seqでマッピングされたDSBホットスポットの近傍にこの修飾が見られるか検討し、野生型ホットスポットにおける「エピゲノム情報」を得る。 次に、terb2変異体ゼブラフィッシュの精母細胞において、染色体軸形成とDSBの異常が観察されたことから、変異体の交配を進めて、ChIP実験に必要な個体数を得る。それらの変異体精巣を用いてDmc1 ChIP-seqを行い、DSBマップを作成する。これにより、染色体軸がテロメア近傍以外の場所から形成された場合のDSBマップを野生型と比較し、その違いを検討する。 - 変化が見られた場合: 軸の形成という「染色体構造」がDSB部位を決めると考えられる。変異体でDSBが起こる領域にどのような特徴が見られるか解析する。さらに、核膜-テロメア接着変異体を用いてH3K4me3のChIP-seqを行い、新しいホットスポット近傍にこの修飾が見られるか検討する。また、野生型のH3K4me3マップと比較することで、「染色体構造」が「エピゲノム情報」に影響をあたえるか明らかにする。 - 変化が見られなかった場合:「ゲノム・エピゲノム情報」によってDSBがテロメア近傍に誘導されると考えられる。この場合、マッピングにより得られるDSB部位近傍に共通のDNAモチーフ等が見られるか検討を行う。また、野生型のH3K4me3マップで、テロメア近傍にこの修飾が集中して見られるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Dmc1 ChIP-seqは、免疫沈降された一本鎖DNAを「Kinetic Enrichment」と呼ばれるプロセスにおいて増幅し、シークエンスを行う。その為、通常のChIPよりも複雑なサンプル調製と、シークエンス結果から一本鎖DNA由来のリード配列を選択してマッピングする特殊なパイプラインによる解析が求められる。この実験と解析について実績のあるDr. Bernard De Massyの研究室(フランス)において技術提供・助言を受ける予定であり、そのための費用を2019年度に計上していた。しかしながら、2019年度中に海外出張を行うことができなかった為、出張計画を翌年度以降に持ち越し、それにかかる費用を次年度使用額とした。
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