研究課題/領域番号 |
19K16050
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
後藤 祐平 基礎生物学研究所, 定量生物学研究部門, 助教 (50814620)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞周期 / CDK / サイクリン / 分裂酵母 / 蛍光相関分光法 / 微小流路 / CRISPR-Cas9 |
研究実績の概要 |
細胞周期とその制御は、すべての真核生物にとって必須の生命現象であり、その破綻は細胞死や細胞のがん化の原因となる。外界からの刺激や内在性のストレスにより細胞周期の進行を不可逆的に制御する細胞周期チェックポイントが細胞周期各時期を厳密に制御している。本研究では、G1/S期チェックポイントに着目し、1細胞定量イメージングにより、分裂酵母およびヒト培養細胞を用いて進化的に保存された「CDKCdk-サイクリンによるG1/S期チェックポイントの閾値決定機構の解明」を目的としている。 本年度は、細胞周期マスター制御因子であるCDK-サイクリンを可視化するために、分裂酵母の内在性CDK-サイクリンに蛍光タンパク質mNeonGreenおよびmCherry2をタグ付けした株を樹立した。また、それらの分裂酵母株において、蛍光相互相関分光法により、細胞内濃度と解離定数を測定することに成功している。今後は、それらのパラメーターが細胞周期中でどのように変化するのか、また、DNAダメージや栄養源枯渇などによる細胞周期制御の際にそれらがどのように変動するのかを測定する。 ヒト培養細胞においても内在性のCDK-サイクリンの標識を試みている。非ガン化乳腺上皮細胞であるMCF10Aはノックイン効率が低いことが知られるが、これまでにいくつかのCDKおよびサイクリン、他の細胞周期制御因子のノックイン株を樹立できている。現在、ノックイン手法の改善を行っており、同時に、蛍光相互相関分光法によって内在性分子の濃度を測定している。細胞周期制御においてCDK-サイクリンの下流因子であるRBの細胞内濃度増加は、G1期とその他の時期で異なっており、これがG1/S期のチェックポイントの不可逆性に寄与しているのではないかと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母ノックイン株については予定通り作製でき、また、蛍光相互相関分光法による測定も可能であることまで分かり、おおむね順調である。さらに、継時観察に用いる微小流体デバイスも当初は自作のもので行っていたが、本研究予算により市販されているCELLASIC ONIX2を購入することができ、より簡便に精度の良い観察を行えるようになった。また、光遺伝学による細胞周期チェックポイントの操作も可能になってきており、より多角的な解析に向けての準備が整った。 ヒト培養細胞ノックインについては苦戦している。細胞周期チェックポイントの正確な挙動を調べるために、非ガン化細胞を用いているが、おそらくDNAダメージ応答経路が活性化するためノックイン効率が非常に悪い。
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今後の研究の推進方策 |
分裂酵母については、これまでに作成したノックイン株を用いて細胞周期制御因子の濃度、解離定数などを細胞周期を通じて測定する。また、DNAダメージや栄養源枯渇などによる一時的な細胞周期停止などの制御の際にそれらがどのように変動するのかを測定する。測定したパラメータを用いて、外界からの情報がどのようにして細胞周期運命決定へと変換されるのかを数理モデルにより解き明かしたい。また、その数理モデルから得られた知見を、遺伝子ノックアウトや変異体、また、光遺伝学による細胞周期操作等の細胞内機能操作によって因果関係を確定させる。 ヒト培養細胞は、ノックイン株樹立にかかるコストが大きいことから、解析対象を現在ノックイン株の樹立ができているものに絞る。
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次年度使用額が生じた理由 |
分裂酵母継時観察に必須である微小流体デバイスCELLASIC ONIX2の購入を、所属研究室の他研究者との共用設備として導入したために、本年度使用額は少なくなった。しかし、微小流体デバイスの消耗品が定期的に必要になるために、次年度以降に使用する計画とした。
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