研究課題/領域番号 |
19K16054
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山置 佑大 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (00778095)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | in-cell NMR / RNAアプタマー / ステム-ループ構造 |
研究実績の概要 |
生きた細胞内は様々な生体分子が混在する分子夾雑環境である。このような環境下では核酸分子の構造やダイナミクス、相互作用が試験管内とは異なると考えられる。本研究では、in-cell NMR法を用いてヒト生細胞内に存在する核酸分子のNMRスペクトルを測定することで、細胞内核酸の上記のような性質を明らかにすることを目指す。令和二年度は、HIVウイルス由来のタンパク質に対して高い親和性を示すRNAアプタマーに着目し、これらの複合体をヒト生細胞内において観測することを試みた。まずRNAアプタマーを単独でヒト生細胞内に導入し、in-cell NMRスペクトルを測定した。細胞内と試験管内におけるRNAアプタマーのイミノプロトン領域のスペクトルが良く一致していたことから、RNAアプタマーは細胞内においても試験管内とよく似た立体構造を形成していることが示唆された。用いたRNAアプタマーは試験管内においては、複数の残基がバルジ構造を形成するステム-ループ構造であり、標的タンパク質の認識に重要である。細胞内においても同様の構造が形成されていることから、本RNAアプタマーは細胞内においても試験管内と似た結合様式でHIVウイルス由来のタンパク質を捕捉すると考えられる。 また、細胞内においてステム-ループ構造を形成するRNAの構造ダイナミクスを観測するため、細胞内核酸のイミノプロトンの交換速度解析を行った。その結果、試験管内においてプロトン受容体濃度を増加させてイミノプロトンの交換速度解析を行っても到達し得ない高い交換速度が細胞内では観測された。これは細胞内においてはステム-ループ構造を形成するRNAの塩基対が試験管内よりも高頻度に開裂していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNAアプタマーとHIVウイルス由来のタンパク質との複合体形成をヒト生細胞内において観測するため、まず、RNAアプタマー単独でのin-cell NMR測定を行い、イミノプロトンシグナルの観測に成功した。次の段階としてヒト精細胞内における複合体の観測を行う。 また、細胞内においてRNAのイミノプロトンと水のプロトンの交換速度を測定することに成功した。イミノプロトンの交換はプロトン受容体によって促進されるが、交換速度が塩基対の開裂速度に達した際に頭打ちとなり飽和する。しかし、細胞内においては試験管内における飽和した交換速度、すなわち塩基対の開裂速度以上のイミノプロトン交換速度が観測された。このことは、細胞内においては試験管内よりも塩基対の開裂速度が大きいことを示唆しており、細胞内ではより高頻度に塩基対が開裂していることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
RNAアプタマーとHIVウイルス由来のタンパク質との複合体形成をヒト生細胞内において観測することを試みる。また、より多くの部位の情報を得るため、安定同位体標識RNAアプタマーの調製も行う。大腸菌内における標識RNAの過剰発現の条件、大腸菌内での分解を抑制するために連結させたtRNA配列からの切り出し条件および精製条件を検討し、高純度の13C安定同位体標識RNAアプタマーの調製を行う。 また、細胞内RNAのダイナミクスの解析を進める。特に細胞内では試験管内よりも高頻度に塩基対が開裂している原因を調べるため、様々な分子込み合い試薬を用いた細胞環境模倣系での解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
安定同位体標識なしでRNAアプタマーのin-cell NMRスペクトルが得られたため、予定していた13Cによる安定同位体標識RNAの調製計画を次年度に順延したため、次年度使用額が生じた。次年度のRNAとペプチドの相互作用解析においては、イミノプロトンだけでなく様々な相互作用部位からの情報を得るために、安定同位体標識RNAの調製を行う予定であり、次年度助成金を用いる予定である。
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