研究課題/領域番号 |
19K16055
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
槇野 義輝 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (80822337)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | NMR / Ras蛋白質 / SACLA/SPring-8 / 創薬科学 / 構造生命科学 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
がん遺伝子ras産物Rasは低分子量G蛋白質であり、活性型であるGTP結合型と不活性型であるGTP結合型を行き来しながら、rafタンパク質をはじめとする標的分子と結合することで細胞の増殖やがん化シグナル伝達を調節している。本研究課題ではがん治療薬の創薬基盤情報を収集するべく、RasのGTP加水分解反応過程すなわちRasの酵素・触媒反応に基づく不活性化メカニズムを光制御可能なcaged-GTPを用いて、X線結晶構造解析並びにNMR分光法を駆使して明らかにすることを目的として研究を遂行した。 2020年度においては昨年度からに引き続きNMR分光法による15N HSQCスペクトルの解析を行いGTP加水分解反応に伴うタンパク質の構造変化を解析した。その結果、GTP結合部位であるSwitch IとSwitch IIからなるポケット領域のみならず隣接したα-3ヘリックス及びp-loopと呼ばれる領域でも顕著に生じていることが明らかとなった。さらに当該年度においては、caged-GTPRasの微結晶サンプルの固体31P NMR測定も実施し、その化学シフト値の変化から微結晶中でGTP加水分解反応が進行する速度論解析を行い、cage離脱後の2時間程度でGTP結合型のうちState Iと呼ばれるポケットの開いた構造状態を取り、5時間から10時間でポケットの閉じたState II状態を経てGDP型へと変化するヌクレオチドの構造状態を補足することに成功した。加えて、これらの速度論に基づいた複数のタイムポイントでのX線回折実験を実施した。詳細は現在解析中であるが、その結果として一連のGTP加水分解反応におけるヌクレオチドとその近傍の電子密度変化を補足しこれらの酵素・触媒反応で生じるGTPの構造変化の一部を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度までに、GTP加水分解反応過程におけるRas蛋白質の構造変化がGTP結合部位に隣接したポケット領域のみならず、隣接したα3‐ヘリックス及びp-loopで生じていることを明らかにしている。加えて、当該年度においては固体31P NMRによるcaged-GTPRasの微結晶サンプルを用いて微結晶中でのGTP加水分解速度をその化学シフト値変化から明らかにし、その速度論に基づいたX線結晶構造解析により、GTP型からGDP型へと変化する過程のヌクレオチドとその近傍の電子密度変化を補足することに成功した。 今後は、未達成の13C NMR測定を実施し蛋白質側鎖の構造変化すなわちアミノ酸ーアミノ酸間相互作用の変化を明らかにすることでより詳細な酵素触媒反応メカニズムの解明を行うが、解析に必要な13C-edited-NOESYや15N-edited-NOESYなどの3DNMRスペクトルの一部は測定済みであり、現在解析中の段階にある。 加えて、より詳細な時間分解でのGTP加水分解反応過程のX線回折実験が本研究課題の達成のために必要であるが、既に取得ずみのキネティクスを反映させることで戦略的にその回折像を補足することが可能である。 以上の点を踏まえて本研究課題は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までの研究において、光照射によるcegd離脱後の15N_HSQC_NMRシグナルを数分毎にトレースすることで、GTP加水分解反応に伴う構造変化がGTP結合部位のみならず隣接した領域でも生じていることが明らかとなっている。また、固体31PNMRによる微結晶中での酵素触媒反応の速度論解析と、得られた速度論に基づくX線回折実験の一部は完了している。これらの研究成果を踏まえて、最終的に明らかにしようとする酵素触媒反応(Rasによる基質分子GTPの加水分解反応)の分子メカニズムを原子分解能で解明のために、未実施分の13C NMR測定を実施し蛋白質側鎖の構造変化すなわちアミノ酸ーアミノ酸間相互作用の変化を明らかにすることでより詳細な酵素触媒反応メカニズムの解明を行う。解析に必要な13C-edited-NOESYや15N-edited-NOESYなどの3DNMRスペクトルの一部は測定済みであり、現在解析中の段階にある。測定や解析においては適宜、選択的アミノ酸標識された試料を用いることで研究を推進する。 また、より詳細な時間分解でのGTP加水分解反応過程のX線回折実験を戦略的に行うために、固体31P NMRについてより詳細な解析とS/N向上のための追加測定を実施し、X線回折実験にフィードバックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、一般実験試薬等について研究室での共同使用のために一部減額が生じた。加えて、2020年度末に実施した31P_NMR測定等について一定の進捗が見られ、2021年度に追加の実験を予定している。2021年度には、これらの実験に加えて、本研究を完遂するために必要なNMR測定、X線回折実験を実施し、これまでの研究実績を踏まえて論文発表するための実験を実施し、論文作成並びに投稿に必要な支出を計画している。
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