麻疹ウイルス膜融合開始複合体を調製するために、その構成因子であるFタンパク質とHタンパク質の調製を行なった。Fタンパク質は昆虫細胞発現系を用いることにより、組換えタンパク質の大量調製に成功した。一方、哺乳動物細胞や昆虫細胞発現系を用いて全長のHタンパク質の発現・精製条件を検討したが、安定なタンパク質として発現させることは難しいことが分かった。Hタンパク質は受容体との結合を担うヘッドドメインとFタンパク質との結合を担うストークドメインにより構成されている。そこで、Fタンパク質との相互作用に必須である、Hタンパク質のストークドメインにターゲットを絞ることにした。麻疹ウイルスと、様々な近縁のウイルスのHタンパク質のストークを様々な長さで昆虫細胞発現系を用いて発現させた。その結果、ネコモルビリウイルスと犬ジステンパーウイルス由来のstalkを安定なタンパク質として発現・精製することができた。精製したストークドメインを用いて結晶化スクリーニングを行なったところ、いくつかの条件で結晶が得られ、X線回折データの収集に成功した。得られた回折データを解析し、分子モデルの構築を行った。解析した構造は、現在までに報告されているどのストークドメインとも異なり、2分子のストークが逆平行に会合して二量体構造を取っていた。得られた分子モデルから、Hタンパク質は受容体が結合すると、ストークが平行な会合状態から逆平行な会合状態へと変化し、Fタンパク質を活性化して膜融合を引き起こすという膜融合モデルを提唱した。これらの結果をまとめた論文を執筆し、投稿した。
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