最終年度は,前年度より進めていたαシヌクレインとプリオンの部分アミロイドのモデル構築および分子動力学シミュレーションによる解析の論文のリバイズを行い投稿した。初版投稿時とほぼ同時期にクライオ電子顕微鏡により脳由来のプリオンのアミロイド構造が明らかになったが,この点も含めて修正を行い,ACS Omega誌にアクセプトされた。αシヌクレインの種間差異の解析についての論文は準備中である。 本研究の目的は,分子動力学シミュレーションなどの計算化学的手法を用いて,αシヌクレインをはじめとするアミロイドの相互作用や構造ゆらぎなどを評価し,種間における凝集性の差について分子論的な知見を得ることである。種間におけるアミノ酸配列の僅かな差異が凝集性に大きく影響する原因を明らかにすることは,構造生物学的な観点だけでなくアミロイドが関与する神経変性疾患の研究としても大きな意義がある。 研究期間全体を通して,αシヌクレインおよびプリオンの部分アミロイドのモデル構築やシミュレーションを行い,主に疎水性相互作用に着目して解析を行った。実験的に種間障壁に関与することが示唆されている疎水性残基に変異を入れて比較を行ったところ,一方のモデルでは変異を入れない方が安定化し,もう一方のモデルでは変異を入れた方が安定化した。これはアミロイド構造の安定性が疎水性相互作用に大きく左右されることを裏付けている。 近年,αシヌクレインやプリオンなどのアミロイド構造の報告が急増している。研究の遅れもあり計画していた解析全てを行うことはできなかったが,本研究のようなシミュレーション解析で得られた知見がアミロイドの凝集様態や株の多様性を解明する一助となることが期待される。
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