研究課題/領域番号 |
19K16060
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉澤 拓也 立命館大学, 生命科学部, 助教 (50779056)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / 筋萎縮性側索硬化症 / 核内輸送受容体 |
研究実績の概要 |
核輸送受容体であるインポーチンβファミリーのひとつであるカリオフェリンβ2は、RNA結合タンパク質FUSの相分離を抑制する。この相分離を抑制するシャペロンとしての機能は、細胞質で形成されるストレス顆粒の制御にはたらくと考えられている。ストレス顆粒の異常は、重篤な神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)との関連性が示唆されていることから、厳密な制御が求められる。相分離異常をもたらす要因として、FUSを含む構成タンパク質の変異等が知られているが、その変異体に対してのカリオフェリンβ2の作用は明らかとされていなかった。遺伝性ALS関連変異として知られているFUS(P525L)とFUS(R495X)について研究を進め、X線結晶構造解析、プルダウンバインディングアッセイ、吸光法による相分離解析、細胞内極材解析を行った。その結果、FUSの変異体に対してもカリオフェリンβ2は結合して相分離抑制能を発揮し、核内輸送が可能であることを示した。そのためには、FUSのアルギニン-グリシン-グリシン領域との相互作用が重要であることを明らかとし、論文を発表をした。 そのほかに、遺伝性ALSでは、C9orf72 の6塩基(GGGGCC)繰り返し回数の増幅が知られており、アルギニンリッチなポリジペプチド(PRまたはGRの繰り返し)産出される。その毒性メカニズムは諸説あるが、相分離の調節因子であるカリオフェリンβ2を阻害する間接的メカニズムがあるのではないかと考え研究を進めている。その結果、PRまたはGRポリペプチドによるカリオフェリンβ2の機能阻害を確認した。今後、物理化学的解析をさらに進め、詳細なメカニズムの解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線結晶構造解析ではカリオフェリンβ2とFUS(P525L)変異体との複合体の構造解析に成功しており、相分離制御機構の解明を進めた。相分離解析の結果、カリオフェリンβ2はFUS変異体についてもFUS野生型に対してと同様に、核移行シグナル結合部位依存的に相分離を抑制することを明らかとした。FUSの様々なフラグメントを用いた等温滴定カロリメトリーによる相互作用解析を行なった結果、カリオフェリンβ2はFUSのアルギニン-グリシン-グリシン領域と相互作用することを明らかとした。FUSの本来のカリオフェリンβ2との結合部位である核移行シグナルが欠失している場合には、アルギニン-グリシン-グリシン領域を介して相分離制御および核内輸送が行うことを明らかとした。本研究成果について論文発表をしており(Gonzalez et al., Sci Rep 2021)、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はカリオフェリンβ2とアルギニンリッチなポリジペプチドとの相互作用を物理化学的に解析を行う。これまでに、一定数以上の繰り返しを持つアルギニンリッチなポリジペプチドがカリオフェリンβ2核移行シグナル結合部位に結合することで、基質タンパク質の結合を阻害することを明らかとした。その結合様式を明らかにするために、X線結晶構造解析、分析超遠心等による解析を進める。主要な結合部位に加えて、マイナーな結合サイトについても検討することで、アルギニンリッチなポリジペプチドの繰り返し回数依存的な毒性のメカニズムの解明を目指す。
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