研究課題/領域番号 |
19K16061
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
古池 美彦 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (70757400)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日時計 / シアノバクテリア / 祖先配列 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアの概日時計を駆動する時計タンパク質KaiCは、試験管内においても24時間周期の化学反応を織りなす。KaiCはATP加水分解と自己リン酸化/脱リン酸化という二つの化学反応を触媒しており、その反応速度は地球の自転周期に対応したものになるよう設計されている。そのため、太古のKaiCを復元してその活性や構造を調べることができれば、地球自転の歴史や概日時計の歴史をタンパク質科学によって明らかにすることが可能となる。以上のコンセプトに基づき、本課題研究では以下の三点について研究を進めている。 (1)ホモログKaiCの系統樹を作成して祖先型KaiCのアミノ酸配列を推定する (2)祖先型KaiCのATP加水分解反応や自己リン酸化/脱リン酸化反応を測定する (3)現生型KaiCの動作機序の原子分解能における解明と祖先型KaiCの立体構造解明 2020年度の進捗は順調であり、まず本課題の根幹となる(1)が完了した。200種を超える現生シアノバクテリアのKaiC配列を収集し、分岐点における祖先型KaiCのアミノ酸配列を統計処理により求めた。(1)の結果を踏まえて(2)では、実際に複数の祖先型KaiCのプラスミドを合成し、発現・精製・評価を進めた。復元されたKaiCの活性評価、計時システムとしての機能の有無を判別した。(3)では、現生型KaiCのリン酸化状態サイクル全体をカバーする結晶構造を原子分解能にて明らかにし、9件をデータベースに仮登録した。祖先型KaiCについても結晶が得られており、その回折能を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の基礎となる研究項目(1)が完了し、その後の生化学・構造評価に供する試料が順調に得られている。研究項目(2)については、地球自転と概日時計の関係を歴史的に紐解けるような興味深い結果が得られており、想定を上回る成果があがっている。研究項目(3)の現生型KaiCの構造解析が、概日周期の化学反応のほぼ全体を捉えており、当初の目標を超える成果となった。祖先型KaiCの結晶が思いのほか順調に得られており、放射光施設におけるデータ収集が予定されている。以上の実験的成果を複数の論文に分けて執筆しており、2021年度での発表が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究項目(2)を進め、(1)(2)について論文を執筆して発表する。(3)についても継続し、現生型KaiCの構造に関する成果を論文にして発表する。祖先型KaiCの結晶構造を迅速に取得し、(1)(2)の成果を併せて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症拡大に伴って、予定していた国内外の会議、および研究代表者が主催する勉強会がキャンセルされ、出張費と謝礼に当初計画との差異が生まれた。また、その他の物品購入や受託サービス等についても物流の遅延や関連業者の業務縮小により断念せざるを得ない事情が生じた。これら本年度に予定していた出張、勉強会、物品購入、受託サービスへの依頼などを次年度の早い時期に早急に進める予定である。
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