研究課題/領域番号 |
19K16062
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
菊地 正樹 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (20742430)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アセチル化 / YEATSドメイン / ヌクレオソーム / 立体構造解析 |
研究実績の概要 |
GAS41(Glioma-Amplified Sequence 41)は、膵臓がんをはじめとする様々ながん細胞の増殖・転移に関わっているとされるがん遺伝子である。GAS41は主に核内に存在し、構成ドメインのYEATSドメインが基質であるアセチル化修飾ヒストンを認識することにより、転写因子複合体やクロマチンリモデリング因子複合体をクロマチンにリクルートし転写を制御している。生体内において二量体を形成するGAS41は、その全体構造や二量体GAS41によるアセチル化ヒストンの認識機構は明らかにされていない。本研究では、X線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡の単粒子解析を用いてGAS41とアセチル化ヌクレオソームの複合体構造を明らかにし、GAS41によるアセチル化ヌクレオソームの基質分子認識機構を解明することを目的としている。 GAS41によるアセチル化ヌクレオソームの分子認識機構を明らかにするため、その構成タンパク質であるアセチル化ヒストンH3の調製を進めた。GAS41はH3K14ac、H3K27acに対して高親和性であることが知られているため、H3K14とH3K27にそれぞれアミノ酸残基部位特異的にアセチル化リジンを導入したアセチル化ヒストンの調製に成功し、アセチル化ヌクレオソームの大量調製に成功した。また、全長のGAS41は昆虫細胞発現系から微量しか調製することができなかったが、N末端タグの改変により大量調製可能な大腸菌発現系を確立した。大量調製したGAS41とアセチル化ヌクレオソームを複合体化させ結晶化スクリーニングを進めたところ、単結晶が得られた。また、電子顕微鏡観察のためGAS41とアセチル化ヌクレオソームをグルタルアルデヒドで架橋する条件検討を行い、負染色により架橋したヌクレオソームを確認することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GAS41・アセチル化ヌクレオソーム複合体の立体構造解析を行うため、X線結晶構造解析のための結晶化スクリーニングやクライオ電子顕微鏡解析のための架橋したヌクレオソーム複合体の調製を進めてきた。結晶化スクリーニングから得られた単結晶を大型放射光施設で測定したところ、およそ8Åの分解能であった。また、クライオ電子顕微鏡解析のためのサンプル調製では架橋したヌクレオソームを負染色により架橋条件の検討を行っている。負染色により良好な顕微鏡写真が得られたサンプルについては凍結条件の検討進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的であるGAS41・アセチル化ヌクレオソーム複合体の立体構造解析のため、X線結晶構造解析においては高分解能データの収集を行うため既に得られている結晶化条件の最適化やデハイドレーションなどを行い大型放射光施設で測定を行う予定である。クライオ電子顕微鏡解析においては、架橋条件やタンパク質濃度、界面活性剤の添加等で凍結条件の検討を行う。良好な顕微鏡写真が得られた場合には、単粒子解析を行うためデータを収集する予定である。また、GAS41とともに複合体を形成し転写を制御しているβ-カテニンとの複合体解析についても進める。β-カテニンについては大腸菌発現系を確立しており、大量調製が可能である。GAS41・β-カテニン・アセチル化ヌクレオソーム複合体の調製方法を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、タンパク質の調製方法の検討に時間を要し、クライオ電子顕微鏡観察で必要な経費の計上が少なかったため、累計支出額が受領額を下回った。本年度からは、クライオ電子顕微鏡での観察が増えるため、主に測定の費用やタンパク質の大量調製用として使用する予定である。
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