バクテリアのトキシン・アンチトキシンは、細胞の遺伝子複製やタンパク質合成などの阻害によって細胞増殖を制御する機構であり、栄養飢餓や抗生物質への暴露といったストレス環境下においてバクテリアの生存に寄与することが知られている。GNATファミリーに属するアセチル基転移酵素のトキシンは、アミノアシルtRNAのアミノ酸のαアミノ基をアセチル化することにより、細胞内の翻訳停止を引き起こし、細胞の増殖を阻害する。GNATファミリーのトキシンには、バクテリアの種や株により、アミノアシルtRNAに対する特異性の異なるものが見つかっているが、これらのトキシンがそれぞれの標的アミノアシルtRNAを特異的に認識する際の分子メカニズムは未解明であった。前年度までに、サルモネラ菌において同定されたGNATトキシンTacTが、グリシンを受容したtRNAGly(Gly-tRNAGly)を特異的にアセチル化することを明らかにし、さらにTacTとアセチル化したGly-tRNAGlyとの複合体の結晶構造を決定することができた。本年度は、前年度に決定した複合体結晶構造に基づいて、さらに生化学的解析および細胞生物学的解析をおこなった。その結果、TacTはtRNAGlyに特有な配列である、識別塩基U73とアクセプター領域内のC2-G71を特異的に認識していることを明らかにした。また、tRNAの変異体を用いた生化学的解析と、TacT変異体の細菌内での機能解析をおこない、TacTがtRNAGlyのRNA塩基配列を認識しているだけはではなく、3'末端に受容したアミノ酸の大きさも識別していることを明らかにし、TacTによるGly-tRNAGly特異的なアセチル化反応の詳細な分子メカニズムの解明に成功した。本成果は論文として公表した。
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