研究課題/領域番号 |
19K16072
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
伊達 公恵 お茶の水女子大学, ヒューマンライフイノベーション研究所, 特任講師 (90709180)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膵臓酵素 / 糖鎖 / 膵臓がん |
研究実績の概要 |
膵臓がんは、他のがんに比べ発見が難しく、有効な検出法と治療法が強く求められている。膵臓がんのマーカーは糖鎖であり、一部の膵臓酵素には抗がん作用が報告されている。本研究では、膵臓がんの新たな検出法と抑制方法の開発を目指して、膵臓酵素と膵腺がんマーカー糖鎖との相互作用を解明することを目的として、実験を進めている。膵臓酵素は、糖質、脂質、タンパク質、核酸などの基質に対して複数存在しており、本研究では、代表的な8つの膵臓酵素を対象としている。 今年度は、これら膵臓酵素について、糖鎖および糖への結合特性を明らかにするために網羅的解析を行った。膵臓酵素は、合成される膵外分泌細胞内ではpH5.5, 膵管を通る膵液中ではpH8.0, 十二指腸では食後3時間までにpH7.0から4.5へと変動するため、膵腺がんと膵臓酵素が接するpH8.0を中心に、pHによる結合変化の解析も行った。解析の結果、対象とした8つの膵臓酵素間で、糖鎖および糖への結合強度および特異性が大きく異なることを明らかにした。また、これら膵臓酵素の糖鎖結合性はpHの影響を強く受け、膵腺がんができる膵管を通る膵液中(pH8.0)において、糖鎖や糖に強く結合する膵臓酵素が存在することを示す結果を得た。これらの結果は、膵臓酵素が、種類および局在により糖鎖や糖への結合強度と特異性が異なることを示している。また、膵臓がんの新たな検出法と抑制方法のターゲットとなる膵臓酵素が存在していることを意味する。そのため、本研究の最終目標である膵臓がんの新たな検出法と抑制方法の開発に近づく成果を得ることができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、代表的な膵臓酵素群の糖および糖鎖結合性の有無およびその特性を明らかにすることを主な目的として解析を行った。具体的には、がんマーカー糖鎖と構成単糖等を含むビオチン化糖ポリマープローブを用いたELISA法による解析、および糖鎖アレイによる網羅的解析を行った。膵臓酵素の糖鎖結合性において、膵臓酵素の合成、分泌、消化を行う各局在でのpHの影響、カルシウムの有無による影響も解析を行った。その結果、これまで糖鎖結合性が知られていなかった膵臓酵素にも糖や糖鎖に結合する糖鎖結合性を発見した。膵臓酵素は、その種類によって糖鎖への結合強度と特異性が大きく異なり、pHやカルシウムによる影響を受ける酵素と受けない酵素があることを明らかにした。 また、糖質分解酵素の活性における糖、糖鎖、糖タンパク質の影響を解析した。その結果、特定の糖、糖鎖、糖タンパク質は、糖質分解活性に大きな影響を与えることを明らかにした。この糖質分解酵素の活性についての結果は、上皮細胞の癌化によって糖質の消化を変化させる可能性があることを意味している。 膵臓酵素の糖鎖結合性および活性への影響については、さらに詳細な解析を進めていく予定である。以上より、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究推進方策として、引き続き1)と2)を行い、3)として膵臓がん細胞を用いた膵臓酵素の影響を明らかにする予定である。 1)膵臓酵素の膵臓がんマーカー糖鎖への結合特性:今年度は、膵臓酵素の糖鎖結合性について網羅的解析を行い、膵臓がんマーカー候補となる膵臓酵素の候補をみつけた。次年度は膵臓がんマーカー糖鎖に焦点を絞った糖鎖結合性解析を行い、膵臓がんマーカー糖鎖に特異的結合を示す膵臓酵素を同定する。 2) 膵臓酵素の活性における糖、糖鎖、糖タンパク質の影響:次年度は1)で候補とした膵臓酵素の活性評価系を立ちあげ、糖、糖鎖、糖タンパク質の影響、ならびに、膵臓がんマーカー糖鎖の影響を明らかにする。 3) 膵腺がん細胞の増殖における膵臓酵素の影響:膵腺がん細胞の培養および評価系を立ち上げ、本研究で対象とした8つの膵臓酵素が、膵腺がん細胞の増殖にどのような影響を示すかを明らかにする。 これらの解析から、膵臓酵素が膵臓がんの新たな検出法と抑制に有用か否かを検証する。
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