研究課題/領域番号 |
19K16074
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森瀬 譲二 京都大学, 医学研究科, 助教 (60755669)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AMPA型グルタミン酸受容体 / 一分子イメージング法 / N型糖鎖 |
研究実績の概要 |
記憶学習形成をもたらす長期増強(LTP)の発動には、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)が樹状突起からスパインへと膜上を短時間で移動する現象(側方移動)が重要となる。これまでにAMPAR上の特定の糖鎖構造を欠失することでLTPが減弱することを示してきたが、どのようなメカニズムでその糖鎖がAMPARの膜上の移動を制御するかは不明のままであった。本研究ではこの課題に対し、生細胞膜上の分子の動きを一分子ごとにリアルタイムに追跡できる高精度一分子イメージング法を駆使してその解明を目指すものである。 本年度はまず、AMPARのチャネル機能を制御する補助サブユニットStargazin(Stg)と、AMPAR主要サブユニットGluA1(またはGluA2)との同時2色一分子観察をHEK293細胞膜上で行ってきた。結果、StgはGluA1の単量体や二量体と一過的な複合体を細胞膜上で作ることが分かった。これまでの報告ではStgは四量体とのみ複合体を作ると考えられてきたことから、その定説を覆す結果を得ることができた。興味深いことにGluA1単量体どうしの会合時間はStgの発現の有無によって変化しなかったことから、StgはGluA1のホモ複合体形成時間に影響を及ぼさないことが分かった。GluA2はGluA1とほぼ同様の結果が得られたことから、サブユニット間に差は見られないことが示唆された。これらの結果は2019年11月にNature Communicationsに掲載され、AMPAR上の糖鎖とStgとの動態解析を進めるための大きな足がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体構想として、Stg発現下でのAMPARサブユニット(GluA1~4)の細胞膜上での動態をN型糖鎖の観点から明らかにすることを目的としている。 初年度では、StgとAMPARサブユニットの同時2色一分子観察手法の確立とその基礎データ取得を目指してきた。結果、両者の一分子の動きを生細胞膜上で撮影することに成功した。詳細に解析すると、StgはGluA1の単量体と~200ミリ秒の会合時間を示したことから、2者は一過的な複合体を膜上で作ることが分かった。興味深いことに、Stg はGluA1の二量体とも同様に~200ミリ秒程度の会合時間を示したことから、AMPARとStgの会合能にサブユニットの数は影響されないことが示唆された。Stgは四量体と相互作用すると予想されてきたが、これらの結果から実際には単量体や二量体と一過的に複合体を形成することが明らかとなった。一方Stg過剰発現下でGluA1のホモ二量体形成時間が変化することが想定されたが、有意な差は見られなかった(Stgの発現有り無しでいずれも約160ミリ秒)。また、GluA2においても同様の結果が得られた。これらのことから、AMPARとStgは膜表面上で安定的に複合体を形成するのではなく、準安定的に複合体を形成しては壊れる新たなモデルが得られた。これらの結果は2019年11月にNature Communicationsに掲載されたことから、本研究はおおむね順調に計画が進行しているものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
Stgと野生型GluA1(またはGluA2)との会合に関わる情報は多く得られたが、糖鎖付加部位変異体GluA1(またはGluA2)はStg発現下でどのような動態を示すかまだ分かっていない。しかし同時2色一分子観察とその解析法を初年度で確立できていることから、糖鎖付加部位変異体の結果は順調に得られると考えている。したがって、引き続きHEK293細胞膜上での同時2色一分子観察について糖鎖付加部位変異体を用いて進める。並行して、2年次の計画通り神経細胞上でのAMPAR動態におけるN型糖鎖の役割を調べる。当初抗体を用いて内在性のAMPARの動態解析を行う予定でいたが、ラベル効率が非常に低く、一分子観察が難しいことが初年度に分かった。それを克服するために、神経細胞で効率よく発現するAMPARサブユニット発現ベクターの作成に成功した。したがって、2年次の計画はより安定して実験を進めることができると考えている。今後その発現ベクターを用いて、LTP時における神経細胞上でのAMPARの動態をN型糖鎖の観点から調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:旅費については複数の学会で発表する機会が得られたことから、当初予定していた金額より上回った。一方で、物品費については実験の効率化を図ったことと、同時2色一分子観察が予想以上に順調に進んだことから、合わせて、当初予定した金額より下回った。
使用計画:次年度の使用額は当初予定していた研究計画の遂行に使用するとともに、引き続き研究成果の発表を積極的に行う。
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