研究実績の概要 |
AMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)は豊富なN型糖鎖付加部位を持ち、かつコアフコース構造やHNK-1糖鎖といった特徴的な糖鎖を有する。AMPAR上からこれら糖鎖が欠失した神経細胞では、記憶学習形成をもたらす長期増強(LTP)の低下が見られた。LTPの発動は、AMPARが小胞体から樹状突起膜上に輸送された後、樹状突起からスパインへと膜上を短時間で移動することにより達成される。しかし、どのようなメカニズムで糖鎖がその膜表面発現や移動を制御しLTPを調節しているかは不明なままであった。その解析を行うために、本研究では高精度一分子イメージング法や海馬初代神経細胞を中心に用い、以下の結果を得た。 1) 同時2色一分子観察法を用いることにより、AMPARチャネル機能制御補助サブユニットStargazin (Stg)がAMPAR主要サブユニットGluA1 (またはGluA2)の単量体や二量体と約190ミリ秒の一過的な複合体を細胞膜上で作ることを明らかにした(Morise et al., Nat. Commun. 10, 5245, 2019)。これまでの報告ではStgは四量体とのみ複合体を作ると考えられてきたことから、その定説を覆す結果を得ることができた。加えて、Stgの発現の有無ではGluA1の二量体形成時間に差がない一方、GluA1N401位のN型糖鎖は二量体形成に重要であることが分かった。 (2)GluA1N63位の糖鎖は膜表面発現に必須であること、加えてGluA1N363位およびGluA2N370位のN型糖鎖は小胞体脱出速度を制御することを明らかにした(Morise et al., Int. J. Mol. Sci. 21, 5101, 2020)。すなわち、特定のAMPAR上N型糖鎖が膜表面発現を調節し、LTPの発動に関与することが示唆された。
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