本年度は、アジド基を導入したコリンを出発物質として生合成されるアジド含有ホスファチジルコリン(PC)の細胞内分布を制御する遺伝子を探索した。ヒトのゲノムスケールCRISPR-KOライブラリーを発現するK562細胞を用いて、オルガネラレベルで空間的に異なる膜領域でPCを蛍光標識した。小胞体・ゴルジ体のPC量に対して形質膜PC量が減少した変異細胞をフローサイトメトリーによって選抜した。次世代シーケンサーによる解析および個別の遺伝子のCRISPR-KOの再解析を通じて、スクリーニングの表現型を示す遺伝子を同定した。解析の結果、形質膜のリン脂質分布の維持に重要なリン脂質フリッパーゼのサブユニットをコードするTMEM30A(CDC50A)が形質膜外層のPC量の維持に必要な遺伝子であることが分かった。同位体標識したPCの質量分析や、形質膜外層に局在する内在性のPCの解析によって、TMEM30Aが欠損しても、PCの生合成や形質膜全体(内層・外層)へのPC供給は損なわれていなかったことが分かった。本研究の結果より、形質膜の内層から外層へのPCの転移反応にTMEM30Aが寄与している新たな役割が示唆された。このTMEM30Aによる形質膜の内層・外層間のPC分布制御はイオンチャネルを含む形質膜局在型膜タンパク質の機能・構造の維持に関与する可能性があり、この詳細を今後明らかにするには更なる研究が必要である。
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