本研究課題では、小胞体局在型転写因子OASISがDNA損傷などの刺激に応答して形成される核ブレブに移行する詳細な分子機構およびその生理的意義を明らかにすることを目指している。2020年度は、以下のことを明らかにした。1)細胞、特に癌細胞は組織内を移動する際に外部から圧力を受けて核膜が障害される。このような時に形成される核ブレブにもOASISの集積が観察された。前年度の結果と合わせると、OASISは細胞の核が損傷を受けた際に、その要因に関わらず核膜損傷部位に集積することが明らかとなった。2)細胞核に損傷が起こると核内に様々な物質が流入してゲノムが損傷を受けることが知られている。OASIS欠損細胞の細胞核に物理的刺激を加えると、野生型と比較してゲノムへの損傷の頻度が高くなっていた。またOASISを過剰に発現させた細胞で同様の解析を行うと、反対にゲノム損傷が抑制された。以上の結果からOASISは核膜損傷に対して保護的に働くことが示唆された。今後はOASISが核膜の損傷を抑えるのか、又は核膜損傷後の修復を促進するのかを検討する必要が有る。また、OASISがどのような分子を活性化する、あるいはどのような遺伝子の発現を誘導することによりそのような機能を発揮するのか、詳細なメカニズムを解析しなければならない。この点について、前年度までにOASISと相互作用する物質の候補として核内膜タンパク質LAP2bをはじめ複数の核内膜タンパク質を同定している。今後はそれら候補分子とOASISの相互作用、またその核膜における生理的意義を解析する。
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