研究課題/領域番号 |
19K16085
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木股 直規 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40822929)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非視覚光受容 / メラノプシン / GPCR / ipRGC |
研究実績の概要 |
本研究では、メラノプシンの分子特性が生体の光応答に与える影響を解明することを目的としている。本年度は、変異型メラノプシンを発現するマウスを作製する実験系、具体的には、過去の文献(Hatori et al. (2016) plos one)にしたがって、アデノ随伴ウイルス(AAV)をメラノプシン遺伝子をCre遺伝子に置換した変異マウス系統(Opn4Creマウス)に導入する系を確立した。まず、遺伝子組換え酵素Cre依存的にメラノプシンを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を作製し、このAAVをOpn4Creマウスの眼球に注射した。その結果、AAVを注射したマウス網膜の一部の神経節細胞において、AAVによって発現誘導されたメラノプシン分子が検出された。次に、この方法でマウス網膜に発現したメラノプシンが、マウスの光生理応答を引き起こすかどうかを検証した。具体的には、Opn4Creマウスを、遺伝的に視細胞が変性するマウス系統(rdマウス)と交配し、遺伝的に光生理応答しないマウス(Opn4Cre;rdマウス)を作製した。このマウスの眼球に上で作製したAAVを注射し、このマウスの瞳孔が光によって収縮するかどうか(瞳孔反射)を測定した。その結果、AAVを眼球に注射したOpn4Cre;rdマウスにおいて、野生型マウスとほぼ同様の瞳孔反射が確認された。これらの結果から、変異型メラノプシンをマウス網膜に発現させ、このようにして作製した変異型マウスについて光生理機能を検証する実験系が確立できたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は一部の時期について、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されたため、一部実験施設の使用に制限がかけられた。特に、動物実験については飼育のための最小限の作業だけが許可されており、本研究のマウスを用いた実験が一部時期で事実上停止していたことから、その分遅れが生じたと考えている。 一方で、研究実績の概要に記述した通り、これまで難航していたAAVの作製法の確立に成功したことで、変異型メラノプシンを発現するマウスの作製が可能となった。さらに、光生理応答のうち瞳孔反射の測定については、これまでよりも時間分解能が向上し、瞳孔の収縮量だけでなく収縮速度の解析に成功した。これらの点から、本年度には当初の目的である、メラノプシンの分子特性が光生理応答に与える影響の解明が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの結果を踏まえ、これまでに見出した重要なチロシン残基についての変異型メラノプシン(Y224FおよびY309F)を発現したマウスを作製し、野生型メラノプシンを発現したマウスと光生理応答を比較することで、これらのチロシン残基の生理的な役割を明らかにする。これまでは、光による即時的な生理応答である瞳孔反射を測定してきたが、今後は長期的な応答である体内時計の光同調も並行して測定する予定である。 また、当初の計画とは少し異なるが、メラノプシンとは異なる光受容タンパク質(オプシン類)を網膜に発現した変異型マウスの作製および解析を新たに計画している。この方法により、変異体解析とは異なるアプローチでメラノプシンの分子特性の生理的な重要性を明らかにすることを目指す。本研究では特に、メラノプシンが2種類の異なるGタンパク質(GqおよびGs)を活性化できる点に着目し、GqまたはGsのみを活性化できるオプシンをマウス網膜に発現させ、野生型マウスと光生理応答を比較する。本年度は、Gs活性型オプシンと言われているハコクラゲオプシン(Koyanagi et al. (2008) PNAS)をマウス網膜に発現し、このマウスの光生理応答を野生型マウスと比較することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は一部の時期について、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されたため、一部実験施設の使用に制限がかけられた。特に、動物実験については飼育のための最小限の作業だけが許可されており、本研究のマウスを用いた実験が一部時期で事実上停止していたことから、その期間に予定されていた実験に必要な金額が次年度使用額として生じた。 次年度使用分については、昨年度に行う予定だった実験を本年度に行う上での物品費・人件費等に用いる計画である。
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