研究課題/領域番号 |
19K16085
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木股 直規 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40822929)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | メラノプシン / ipRGC / 非視覚光受容 |
研究実績の概要 |
本研究では、マウスメラノプシンの活性化プロセスに重要と考えらえるチロシン残基(Y224およびY309)の生理的な役割を解明するため、これらの残基の変異体メラノプシンをマウスipRGCに発現させ、光生理応答を野生型マウスと比較している。本年度は、Cre依存的にY309F変異体メラノプシンを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を作製し、実験を行うのに十分な濃度の試料を得られた。そこで作製したAAVを、ipRGC特異的にCreを発現し、かつ視細胞が変性する遺伝子を持つマウスの眼球にインジェクションし、ipRGCにY309F変異体を発現するマウスを作製することを試みた。作製したマウスについて、ipRGCでの光受容能がレスキューされているかを検証するため、このマウスの行動リズムが環境の明暗サイクルに追従するかどうかを観測した。しかし、このマウスの行動リズムは明暗サイクルに追従しなかった。その原因として、(i)マウスでは加齢に伴いメラノプシンの発現量(すなわちCreの発現量)が減少し、導入したメラノプシンの発現量も低下した、または(ii)導入したメラノプシンは十分発現しているが、時計中枢である視交叉上核への情報伝達が起こらなかった、という可能性が考えられる。特に後者について、マウスの発生において網膜での光受容が正常な神経投射および体内時計に重要であることが報告されている(Chew et al. (2017) elife)。この報告を踏まえ、本結果はマウスの発生に必須の光受容を受け付ける週齢の期限(臨界点)があることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はメラノプシン変異体を発現するためのAAVの作製に成功し、マウス眼球へのインジェクションおよび光生理応答の比較に着手できた。飼育していたマウスの都合上、予定よりも老齢のマウスを実験に用いることになったことで、目的としていた変異型メラノプシンによる光生理応答を見ることはできなかった。一方で、ipRGCにメラノプシンを発現させることで光機能がレスキューできるかどうかにマウスの週齢が関与している、すなわち、マウスipRGCの機能またはipRGCが関わる神経回路の形成には臨界点が存在する可能性を見出すことができた。本計画の本来の目的とは異なるものの、加齢によるipRGCの機能形成への影響という新たな研究のきっかけが得られた点は、研究の発展に寄与する可能性が考えられる。また、本研究の遂行においても、使用できるマウスの条件が明らかになったことで今後の実験の効率化が期待できる。以上を総合し、本研究の進捗状況をおおむね順調であると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果から、AAVを用いたメラノプシンの発現によるipRGCの光機能の回復には、マウスの週齢が重要である可能性が浮上した。そこで、若齢マウスと老齢マウスの眼球に、野生型メラノプシンを発現するAAVをインジェクションし、それぞれのマウスの光生理機能、具体的には体内時計の光同調および瞳孔反射について比較解析する。この結果から、メラノプシンの発現によって光生理機能が回復するマウスの週齢を明らかにし、以下の実験の条件を決定する。 まず、AAVを用いてY224F変異体またはY309F変異体のメラノプシンをipRGCに発現したマウスを作製し、体内時計の光同調および瞳孔反射について野生型メラノプシンを発現したマウスと比較解析する。特に、これらの変異はメラノプシンの活性化プロセスに影響を与える可能性があるため、光刺激直後の反応速度を観測できる瞳孔反射について詳細に解析する予定である。 さらに、本年度はメラノプシンのGタンパク質選択性にも着目し、変異型メラノプシンの作製・解析を試みる。我々を含む複数の研究グループが、マウスメラノプシンが従来知られていたGq型に加えて、Gs型のGタンパク質を活性化することを見出している。そこで、本研究ではこの選択性が個体の光応答に与える影響を検証するため、GsまたはGqを選択的に活性化する変異型メラノプシンを作製する。具体的には、メラノプシン分子の中でGタンパク質と相互作用すると考えられる細胞内ループの変異体、もしくはこのループを他のGPCRの配列に置換したキメラを作製し、これらの変異体が光依存的にGsまたはGqを選択的に活性化するかどうかを培養細胞で検証する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
以下の理由により、本年度に遂行する予定であった予算の一部が未遂行になったためである。 (i) 所属する研究室の主催者が退官したことに伴う実験体制の移行により、予定していた実験の一部に遅れが生じた。 (ii) 新型感染症の影響で、参加予定だった学会等が全てオンライン開催となり、交通・宿泊費の必要がなくなった。
|