最終年度である2020年度は、研究成果を米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。 本研究は、cAMP依存性キナーゼ(Protein kinase A、PKA)の活性をマウス網膜の単離培養からライブイメージングする手法の開発と、同活性が視細胞において光刺激によって変化するという発見を出発点としていた。そして、PKA活性変化を司る光受容体の同定と、PKAが視覚に与える影響の生理学的な評価を到達目標としていた。研究終了時点で、光受容体はロドプシンと同定されて第一の目標を達成したが、第二の目標については測定系整備までとなった。 光受容体に関して、開始当初はロドプシン非依存的な仕組みを想定していたため、予想外の結果となった。しかし、PKA活性化の作用スペクトル、ロドプシンの吸収スペクトル測定、ロドプシン経路欠損の変異体マウスでの測定、明所飼育したアルビノマウスにおけるロドプシン欠損、などの多数の証拠に基づいて、ロドプシンが光受容体であると結論した。開始時の想定を誤った原因は、光照射によるロドプシン減少の程度を誤って理解していたことだった。通常室内照明下、室温下で単離した黒毛マウスの網膜には、ロドプシンはほとんど残らないと考えていたが、意外にも暗所試料の16%に相当するロドプシンが残存していた。一方、アルビノマウス網膜では残存量は検出限界以下であった。これらの新しい知見は今後の研究対象としたい。 第二の目標に関して、視細胞の生理学的な測定に用いるex vivo ERG測定系を整備して、日本動物学会にて成果発表を行った。現在までに、ドパミンによる視細胞のフラッシュ光応答特性の変化を検出しているが、論文発表には2022年以降になる見込みである。なお、ドパミンは視細胞PKAを抑制することを先述のライブイメージング法で確認している。
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