研究課題
我々は、哺乳動物細胞の小胞体におけるジスルフィド結合形成ネットワークを構成するPDIファミリー酵素PDIやERp46、その上流酵素Ero1、GPx7/8に関して、立体構造や機能を明らかにしてきた。PDIファミリー酵素ERp57は、フォールディング補助因子(シャペロン)であるカルネキシン(CNX)やカルレティキュリンとの協調的な酸化的フォールディング触媒機構が提唱されていたが、どのようにこれら相互作用が制御されているのか不明であった。今回我々は、clear-native PAGE解析と等温滴定型熱量計解析により、カルシウム存在下に比べて非存在下で、ERp57とCNXの相互作用が増大することを明らかにした。さらに、この複合体は、免疫システムに重要なヒト白血球抗原重鎖の酸化的フォールディングを促進させ、凝集を抑制した。これらの結果から、カルシウム枯渇のような異常な環境においてタンパク質の品質を管理するため、ERp57-CNX複合体が効率よく酸化的フォールディング触媒やシャペロン能を発揮すると考えられる。PDIファミリー酵素P5は、ジスルフィド結合形成触媒以外に、小胞体ストレス応答などの生理機能を発揮することが明らかになっているが、立体構造が未決定であったため、その作用機序は不明であった。今回我々は、X線結晶構造解析とX線小角散乱法により、P5の全長構造を決定した。3つのチオレドキシン様ドメインで構成されたP5はN末端側のドメインを介した二量体であり、さらにその相互作用界面は新規なロイシン-バリン接着モチーフであることを発見した。このP5の二量体モチーフの欠損は、構造不安定化を誘起し、小胞体ストレスセンサーの制御能を低下させることから、P5の二量体構造が機能に重要であることを明らかにした。以上のように、新生鎖を触媒するPDIファミリー酵素の立体構造やその機能を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
PDIファミリー酵素ERp57とシャペロンカルネキシンの複合体の制御機構及びその機能を明らかにし、国際誌Moleculesに論文発表した。また、PDIファミリー酵素P5の全長構造の決定及びその機能を明らかにし、国際誌Structureに論文発表した。さらに現在、糖尿病と関係深いインスリンの前駆体であるプロインスリンや、免疫システムに重要なヒト白血球抗原(HLA)の酸化的フォールディング機構及び、PDIファミリー酵素の触媒機構を解析中である。
精製した全長の還元変性基質を用いて、ジスルフィド結合の形成及びフォールディング経路を詳細に調べ、実際の小胞体内で起こる反応と比較・検証する。さらに、PDIファミリー酵素の役割も調べる。また、PDIファミリー酵素による基質の酸化的フォールディング触媒機構を分子・原子レベルで明らかにするため、種々の構造解析手法を用いる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) 産業財産権 (1件)
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