研究実績の概要 |
我々はこれまでに新生鎖の酸化的フォールディングを触媒する個々のPDIファミリー酵素の立体構造やその機能を明らかにしてきたが、どのようにして効率よく新生鎖の酸化的フォールディングを触媒するのか、未だ不明な点が多い。 昨年度は、PDIファミリー酵素P5の溶液中での二量体形成が基質認識において重要であることを示したが(Okumura, Kanemura, et al., Structure 2021)、P5による基質認識機序は不明であった。本年度、Far-western blot法によりP5と他のPDIファミリー間との相互作用を調べた結果、P5はPDIとERp72と相互作用することがわかった。P5とPDIの複合体は酸化的フォールディング触媒を亢進する一方で、P5とERp72の複合体はほとんど触媒効果が見られなかった。また、P5とPDIの複合体は凝集抑制能(シャペロン能)の向上は見られなかった一方で、P5とERp72の複合体はシャペロン能が亢進した。以上の結果は、基質のフォールディングステージに応じたP5とPDIおよびERp72との複合体形成が効率的な分泌タンパク質の生産に重要であることを示している(Matsusaki, et al., Biology 2021)。 このように、PDIファミリー酵素間の新たな小胞体内品質管理ネットワークの一端を明らかにした。近年、PDIファミリー酵素の機能不全はALS, AD, PDなどの神経変性疾患との関連性が報告されており、その根底に潜むタンパク質品質管理における分子メカニズムの理解が基礎研究だけでなく医療応用の点でも重要である。
|