研究課題/領域番号 |
19K16094
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
鳥澤 嵩征 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 助教 (60749406)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞骨格 / 分子モーター / 細胞質ダイニン / C. elegans |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞サイズの変化に伴って細胞内の力学的バランスがどのような制御を受けているかについての知見を得ることであった。前年度においては、線虫C. elegansの胚中に導入したビーズ運動を観察することで、細胞内物性の細胞サイズ減少に伴う変化を明らかにすることができた。本年度はその結果を受け、上記の物性変化に対して、力を発生させる基本要素である細胞質ダイニン(以下ダイニン)がどのような寄与をしているかを定量することを試みた。具体的には、ダイニンをRNAiによってノックダウンした際の胚導入ビーズの運動を解析し、ダイニン存在時との比較を試みた。その結果、一細胞期においてダイニンの不在がビーズ運動を抑える傾向を捉えることができている。しかしながら、RNAiによるダイニン量減少は細胞分裂に深刻な影響を及ぼし、卵割が進んだ状態での観察が事実上不可能であるという問題があり、二細胞期以降の影響を調べるための観察が行えていない。これを解消するために、薬剤添加によってダイニン量減少の時期をコントロール可能な線虫株を用いることを決め、本年度中に樹立に至ることができた。 生細胞観察と相補的な役割を担う再構成実験を行うためは、細胞質ダイニンを複合体として精製することが必要である。この目的のために、大量培養した線虫からのタンパク質精製を試みた。しかしながら、これまでのところ活性を持った細胞質ダイニン複合体を得ることには成功していない。この原因については、回収した線虫の破砕過程に問題があると考えており、今後改善を図っていく。線虫のチューブリンを精製するためのカラム作製に必要なTOGタンパク質については、精製系を確立することが出来ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
再構成系に使用する細胞質ダイニン複合体を得る過程に困難が生じており、これが計画上の遅れを発生させている。精製に使用する線虫株の樹立、および液体培地を用いた大量培養は既に確立しており、また、タンパク質精製後の実験系の準備も整っているが、回収した線虫個体を破砕する方法の至適化が進んでいないことが問題である。 一方で、線虫C. elegansの初期胚を用いた生細胞観察においては、実験法、使用する線虫株、解析法の確立を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞サイズに依存した細胞内易動度の減少と細胞骨格因子との関連を明らかにすることで、サイズ依存的な力学的制御についての知見を得ることを目指す。線虫胚を用いた生細胞観察では、二細胞期以降におけるダイニンの影響を定量するため、本年度樹立に成功した株を用いた観察、解析を行っていく。具体的には、薬剤添加によってタンパク質分解を引き起こすことのできる実験系を用いて、第一分裂以降の線虫胚におけるダイニン量減少と細胞内物性の変化を観察していく。 再構成実験に関しては、使用予定の線虫細胞質ダイニン複合体を得ることを目指して継続して精製を試みる。現状の精製行程において問題点となっているのは、研究実績にも記したように、回収した線虫の破砕過程である可能性が高い。これまでは既存の設備を活用するということを重視して、超音波による破砕を行っていたが、液体窒素を用いた物理的破砕法を試行する予定である。観察に用いる顕微鏡システムは既に構築を完了しており、タンパク質精製に成功次第、再構成実験を行う予定である。細胞骨格としては、ダイニンに合わせる形で線虫のものを使用する予定であるが、状況によっては一般によく用いられているブタ脳からの精製物を使用することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
再構成実験の実施に必要なタンパク質の精製に困難が生じており、そこにおける遅れから関連する試薬等に関する支出が抑えられた。また、本年度は参加したすべての研究会がオンライン開催となり、旅費に関する支出がなくなったため、未使用金額が生じた。
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