研究課題/領域番号 |
19K16096
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山本 尚貴 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (30805338)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物物理 / 上皮組織 / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
上皮細胞が隙間なく接着した細胞層である上皮組織は、多細胞生物の生命活動に不可欠であり、上皮組織の機能解明は生物学の重要な課題である。上皮組織は、細胞同士が互いに力を及ぼし合うことで細胞間接着を維持しながら、動的に互いの位置関係を変化させ、生物学的機能を果たす。そのため、上皮組織の機能の理解のためには、上皮組織の動態を支配する細胞間の力学機構を解明することが不可欠である。本研究では「細胞間の力が各細胞の状態を介した細胞間の相互作用により、どのように制御されているか」を定量的に明らかにすることを研究目的とする。 2020年度は、2019年度に引き続き、上皮細胞組織の数理モデルを用いて、本研究で予測される細胞間の張力や接着力などの力学的な性質の時間的な変化が、上皮組織のダイナミクスにどのような影響を及ぼすかを明らかにし、上皮組織の力学的な性質と動的な性質の関係についての知見を得た。具体的には、二次元バーテックスモデルに張力の時間的なゆらぎの効果を導入し、張力ゆらぎの持続時間をパラメータとし、細胞の拡散ダイナミクスを調べた。その結果、張力ゆらぎの持続時間が短いときには、拡散係数が単調に増加し、持続時間が長いときには単調に減少し、拡散係数が張力ゆらぎの持続時間に対して非単調に変化することを明らかにした。そして、張力ゆらぎの持続時間の短い領域、長い領域、それぞれで質的に異なる拡散係数の振る舞いが発生するメカニズムについての理解を進めた。これらの結果を論文に取りまとめ、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、2019年度に引き続き、上皮組織の力学的な性質と動的な性質の関係について理論的な理解を深めることができ、次年度、上皮細胞のダイナミクスを観察・定量し、結果を解釈するための地盤を整えることができたため概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに上皮細胞観察用のマイクロウェルの作製方法を概ね確立しているので、今後は実際に上皮培養細胞をマイクロウェルに入れて観察を行い、ダイナミクスの定量を進める。また、上皮組織の力学的な性質と動的な性質の関係を調べている数理モデルについてもまだ理解が不十分な点があるため、より詳細な解析を行い、理解を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、作製した細胞観察用チャンバーにおいて、細胞観察実験の条件検討を行う予定であったが未完了であり、次年度に行う必要がでてきたため、次年度使用額が生じた。次年度予定の本格的な細胞観察実験・データ解析に必要な翌年度分として請求した助成金に加えて、細胞観察実験の条件検討のために次年度使用額を使用する。
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