上皮細胞が隙間なく接着した細胞層である上皮組織は、多細胞生物の生命活動に不可欠であり、上皮組織の機能解明は生物学の重要な課題である。上皮組織は、細胞同士が互いに力を及ぼし合うことで細胞間接着を維持しながら、動的に互いの位置関係を変化させ、生物学的機能を果たす。そのため、上皮組織の機能の理解のためには、上皮組織の動態を支配する細胞間の力学機構を解明することが不可欠である。本研究では「細胞間の力が各細胞の状態を介した細胞間の相互作用により、どのように制御されているか」を定量的に明らかにすることを目指した。 本年度は、前年度に引き続き、上皮組織の力学的な性質と動的な性質の関係を明らかにするために、上皮組織の数理モデルである二次元細胞バーテックスモデルを用いて、細胞間の張力や接着力などの力学的な性質の時間的な変化が上皮組織のダイナミクスにどのような影響を及ぼすかについて調べた。具体的には、バーテックスモデルに張力の時間的なゆらぎの効果を導入し、張力ゆらぎの持続時間をパラメータとし細胞の拡散ダイナミクスを調べてきた。その結果、前年度には、張力ゆらぎの持続時間が小さいときには、拡散係数が単調に増加し、持続時間が大きいときには単調に減少し、拡散係数が張力ゆらぎの持続時間に対して非単調に変化することが明らかになった。しかし、そのメカニズムについては明確にできていなかったため、本年度は、モデルの振る舞いをさらに調べることでメカニズムを明らかにした。これらの結果をとりまとめた論文は、論文誌に受理され、出版されている。 また、本研究では、細胞の状態に依存した細胞間の相互作用のルールを、多細胞系のイメージングデータから抽出する必要があるが、本年度は、そのための手法を機械学習の手法であるグラフニューラルネットワークを用いて提案した。その結果は、論文にとりまとめ、現在査読中である。
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