研究課題
本研究では、独自に開発したエフェクター高度集積技術であるTREEシステムの拡張を進めると共に、未だ実現されていないエピゲノムの改変法を確立し、該エピゲノム修飾とがんとの関連性を明らかにすることを目的としている。2019年度は、TREEシステムの拡張と様々なエピゲノム改変のための準備および初期検討を実施した。TREEシステムは、転写活性化因子を高度に集積させることのできるプラットフォームとして2018年度に確立したシステムである(Kunii et al., CRISPR J, 2018)。本システムは、CRISPR-dCas9を基盤としつつ、sgRNAにMS2結合タンパク質(MCP)が認識するアプタマー配列を付与し、更にMCPに対してGCN4を多数連結したマルチエピトープタグを用いて、scFvを融合させたエフェクターを大量に呼び寄せることを可能にしている。TREEシステムを用いることで、特定の遺伝子の転写レベルを高度に増強できることが示されていたものの、複雑なエピゲノムの任意改変を実現するためには、より多重化・多様化したTREEシステムの確立が不可欠であった。そこで2019年度は、TREEシステムの更なる拡張を目的として、これまでMS2のみであったアプタマーを拡張し、全てのアプタマーでの機能性を確認すると共に、従来のMS2よりも優位な特性を有するアプタマーを見出した。更に、ポリペプチド性のタグ配列についても、GCN4の他に機能性を有する2つのタグ配列を同定し、TREEシステムに組み込むことに成功した。これにより、多様化したTREEシステム、すなわちFORESTシステムの技術基盤を確立した。加えて、FORESTシステムを用いたエピゲノム改変を実施するため、FORESTフォーマットでのヒト内在性エピゲノム修飾酵素遺伝子の発現ユニットを多数構築すると共に、一部の機能性を確認した。
2: おおむね順調に進展している
TREEシステムの多重化・多様化を目指し、アプタマーとしてMS2の他にPP7、com、boxBを追加した。各アプタマー結合タンパク質に転写活性化因子を直接連結し、4種総当たりでの直交性解析を行った結果、全てのアプタマーが目的の結合タンパク質のみと結合する性質が確認できた。また、従来型のTREEシステムで使用してきたMS2システムよりも高い転写活性化能を示すアプタマーを見出すことができた。CN4以外のポリペプチド性タグ配列については、GFP11タグとMoonTagを採用し、いずれを使用した場合でもTREE型システムでの転写活性化が可能であることが示された。以上より、多重化・多様化したTREEシステム=FORESTシステムの技術基盤が予定通りに確立された上、従来のMS2介在システムを上回る特性を見出し、更なる高活性化をも実現することができた。2020年度に実施するエピゲノム改変のための下準備が十分に整ったと判断できるため、本研究はおおむね順調に進展している。
今後は、確立したFORESTシステムを用いることで、難編集性エピゲノム修飾の改変を試みる。既にある程度の部位特異的な編集が実現されているエピゲノムの改変をより効率化することを足掛かりに、これまでに改変が試みられつつも極めて低効率で実用レベルに至っていないエピゲノムの改変や、実施例が全く報告されていない因子を用いたエピゲノム編集へと展開すると共に、複数のエピゲノム修飾の同時制御も試み、複雑なエピゲノム異常に基づくがんの発症機序の解明に役立てることを目指す。
当該年度の当初計画では、試験研究が順調に進展しなかった状況を想定し、バックアップ実験のための経費を計上していたが、研究の順調な進展により、本経費を次年度に使用する計画とした。次年度には様々なエピゲノム修飾の改変実験を予定しており、より多くの細胞実験および分子生物学実験が必要となるため、このために使用する計画である。
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