研究課題/領域番号 |
19K16126
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
田中 啓雄 帝京大学, 医学部, 助教 (70795905)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 上皮バリア / タイトジャンクション / 細胞間バリア / アピカル / トランスポーター / チャネル |
研究実績の概要 |
生体は大小様々な区画に分かれ、各区画は、上皮細胞シートによる「上皮バリア」により、内部環境を外部からの摂動に対応させ、種々の生体機能を発揮する。上皮バリアは、タイトジャンクション(TJ)による上皮細胞間バリアと、上皮細胞アピカル膜によるアピカル面のバリアで形成され、物質移動の制限と選択的透過を行う。近年、TJの細胞間バリアとアピカル面のバリアが機能的に連携し、生体システムを構築する事例が明らかになってきた。また、両バリアの連携を標的とする薬剤が臨床試験段階にあり注目されている。しかしながら、両バリアの連携機序の分子基盤は不明な点が多い。このような状況の中、研究代表者は、TJの裏打ちタンパク質がアピカル膜のトランスポーターと構造的・機能的にリンクする可能性を見出していた。 本年度は、培養上皮細胞をモデルに、TJの裏打ちタンパク質が、アピカル膜トランスポーターとして知られるNHE3の局在化を制御することを明らかにした。まず、CRISPR-Cas9システムにより、TJの裏打ちタンパク質に関する遺伝子改変細胞株を樹立した。得られた細胞株を用いて、NHE3のTJ近傍やアピカル膜への局在が、TJの裏打ちタンパク質の発現量に応じて制御されることを見出した。また、TJの裏打ちタンパク質とNHE3との相互作用を示す結果も得られた。興味深い知見として、他の細胞系においてアピカル膜の水チャネルとTJが構造的・機能的に連携する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)培養上皮細胞系にて、TJの裏打ちタンパク質に関して、欠失細胞株や再発現細胞株の樹立が完了した。これら細胞株を用い、TJの裏打ちタンパク質がアピカル膜トランスポーターの局在を制御することを見出した。また、両分子の相互作用を示す結果が得られた。当初の計画通り、TJの細胞間バリアとアピカル面バリアとの連携機序について、その分子基盤に関する知見が得られている。
(2)他の細胞系にて、アピカル膜の水チャネルとTJが構造的・機能的にリンクする可能性を見出した。両バリアの連携を示す新規の事例として注目すべき点である。
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今後の研究の推進方策 |
TJの裏打ちタンパク質を軸に両バリアの連携機序の分子基盤を明らかにし、上皮バリアシステムの新規構築原理を解明する。令和2年度には、以下の計画を遂行予定である。 (1) TJの裏打ちタンパク質によるNHE3局在化制御メカニズム。NHE3のC末側細胞質ドメインは、NHE3のアピカル膜への局在化を制御することが知られる。NHE3のC末側細胞質ドメインを標的としてTJの裏打ちタンパク質との結合領域を特定する。特にNHE3と細胞骨格との相互作用をTJの裏打ちタンパク質が強化する可能性に着目し調べる。 (2) TJの裏打ちタンパク質による細胞間バリアとアピカル面バリアの機能制御。TJの裏打ちタンパク質がNHE3のイオン輸送活性を制御する可能性を検証する。樹立済みの培養上皮細胞株にて、NHE3のNa+とH+の交換輸送活性を、pH蛍光指示薬を用いた細胞内pHイメージングにより評価する。また、放射性同位体標識した22Naの細胞内取り込み活性による評価も予定している。平行してTJの裏打ちタンパク質が細胞間バリアを制御する可能性を検討するため、経上皮電気抵抗値測定法、Ussing chamber法を用い、生理学的に評価する。 (3) TJの細胞間バリアとアピカル面バリアの新規連携様式。アピカル膜の水チャネルとTJが構造的・機能的にリンクする可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的分子の遺伝子改変細胞株の樹立が順調に進み、細胞培養に掛かる物品費が当初の予定より少額となったため。
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