免疫細胞の一種である樹状細胞は、CCL19等の誘引物質の濃度の高い側へ走化性によって移動する。細胞移動の推進力発生にはアクチン線維と細胞接着分子との間を連結するクラッチ分子が重要である。しかしながら、樹状細胞のクラッチ分子は不明であり走化性の分子機構はよく解っていない。本研究では、1分子計測、細胞移動の推進力の測定、原子間力顕微鏡(AFM)による組織の硬さ測定などを含む先端技術を駆使して、走化性を生み出す力と組織の硬さという視点から樹状細胞の走化性の分子機構の解明を目指した。 前年度は、樹状細胞においてShootin1bがアクチン線維と細胞接着分子L1との間を連結するクラッチ分子として機能し、CCL19に向かう走化性移動に関与することを証明した。本年度は、Shootin1bノックアウト樹状細胞を用いて網目の粗い柔らかいコラーゲンゲルおよび網目の細かい硬いコラーゲンゲル中での樹状細胞の走化性移動を解析した。柔らかいゲル中では野生型細胞に比べてノックアウト細胞の移動速度は減少したが、硬いゲル中では野生型細胞とノックアウト細胞の移動速度に変化がないことが解った。次に、マウスの足の裏からノックアウト樹状細胞を注入し、リンパ管を通りリンパ節へ向かうノックアウト樹状細胞の移動を解析した。野生型細胞に比べてノックアウト細胞ではリンパ節に移動した細胞数が減少することが解った。また、CCL19刺激後の樹状細胞の破砕液を用いてShootin1bのリン酸化を解析したところ、リン酸化酵素Pak1によりShootin1bがリン酸化されることが解った。以上の結果から、Shootin1bを介した走化性の移動様式がコラーゲンの硬さにより変化することや、Shootin1bは組織内の移動に関与すること、さらには、Pak1を介したShootin1bのリン酸化が樹状細胞の走化性移動に関与することが示された。
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