研究実績の概要 |
本年度は、予定していたGPIトランスアミダーゼ複合体の5つのサブユニットのC末端側にエピトープタグを融合させた遺伝子を持つノックインショウジョウバエを作成した。ゲノムDNAをテンプレートとしたPCRによって目的のゲノム領域へのタグ配列の挿入を確認した。さらに、ウエスタンブロットによってタグ配列が融合したタンパク質の発現を確認した。 これらのタンパク質の細胞内局在を調べるために、ショウジョウバエの組織の中で比較的細胞が大きい組織において免疫蛍光染色を行ったところ、PIGT, PIGU, GPAA1, PIGSはいくつかの組織で小胞体だけでなく核膜にも局在していることがわかった。興味深いことに、PIGKは確認したすべての組織において小胞体だけに局在していた。GPIトランスアミダーゼ複合体の活性には5つすべてのサブユニットが必要であることから、この結果は本研究課題で提案しているGPIトランスアミダーゼ複合体がGPIアンカー型タンパク質の合成以外の機能を持っていることを示唆している。 次に、核膜に局在しているPIGT, PIGU, GPAA1, PIGSのうち、どのサブユニットが複合体が核膜に局在するか調べるためにそれぞれのノックアウト系統を用いて解析したところ、予想に反してPIGT, PIGU, GPAA1は他4つのサブユニットのタンパク質が安定に存在するために必要であるということが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タグを融合させたノックイン系統を5系統すべて作成することに成功した。そのため、実験材料の準備は円滑に進行した。 当初核膜に局在するサブユニットをノックアウトした視神経組織を作成して、核の位置の制御に必要か調べる予定であった。しかし、GPIトランスアミダーゼ複合体のサブユニットはタンパク質レベルで相互に安定化しあっていることがわかった。そのため、特定のサブユニットのみのタンパク質量を減少させることが出来ないことがわかった。よって、当初予定していた(1)GPIトランスアミダーゼ複合体のどのサブユニットが必要であるかを調べる実験と(2)そのタンパク質が持つ新規の核膜局在シグナルを調べる実験は実施することが困難であるということがわかった。 サブユニットの相互安定化という知見は新規性があったため、それぞれのサブユニットのmRNAレベルの解析などと合わせて論文発表した(Kawaguchi et al., BBRC, 2019) 当初予定していた一部の実験は行えなかったものの、(1)5つすべてのサブユニットの細胞内局在を明らかにすることに成功したことと、(2)5つのサブユニットのうちPIGKだけが小胞体だけに局在するという意外な発見をしたこと、(3)5つのサブユニットが相互に安定化しているという意外な発見をしたことから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、GPIトランスアミダーゼ複合体が合成するGPIアンカー型蛋白質が重要なのか、それとも核膜に局在するGPIトランスアミダーゼ複合体自体が重要なのかを検証していく。本年度の解析によって、PIGKが核膜に局在しないことがわかったので、当初の予定通り核膜に局在しないGPIアンカー型タンパク質合成酵素であるPIGKのノックアウト系統と核膜に局在するPIGT, PIGU, GPAA1, PIGSのノックアウト系統の視神経における表現型を比較する。以降の実験はこの実験の結果によって、申請書に記載した通り実施していく予定である。
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