研究課題/領域番号 |
19K16133
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
平井 悠哉 大阪歯科大学, 歯学部, 助教 (90710369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | RNAヘリカーゼ / DDX17 / 核小体 / ストレス顆粒 / 天然変性領域 / 液-液相分離 / membraneless organelles |
研究実績の概要 |
核小体とストレス顆粒はそれぞれ核と細胞質に存在する膜を持たないオルガネラ(membraneless organelles: MLOs)である。両者には、液-液相分離によって形成されるMLOsという構造上の、またリボソーム代謝とストレス応答に関与するという機能上の共通点がある一方で、その機能的関連については明らかになっていない。そこで本研究課題では、核小体とストレス顆粒の両方への局在が示唆されているRNAヘリカーゼのDEAD-boxタンパク質に着目し、その機能や動態を解析することで、核小体とストレス顆粒の間に潜む機能的関連を明らかにすることを目指す。 当該年度ではDEAD-boxタンパク質の1つであるDDX17に着目し、翻訳開始点の違いによって生じる2つのアイソフォームであるp72とp82の細胞内局在や動態の解析を行った。まず配列予測により、p82のみに存在するアミノ酸配列の大部分は、液-液相分離を引き起こす原動力となる天然変性領域であることが明らかになった。p72とp82の細胞内局在を比較したところ、p72は核質にほぼ均一に局在したのに対し、p82は核質における凝集体と核小体に局在することが明らかになった。 p72とp82の細胞内動態の比較から、p82の細胞内動態はp72のものより遅いことが明らかになった。また高浸透圧ストレスにより、p72、p82ともにストレス顆粒にその局在が見られたものの、ストレス顆粒に局在する割合はp72の方が高かった。さらにp72およびp82の酵素活性の欠損変異体の細胞内局在を観察したところ、両者ともにストレス顆粒に局在し、p82の核小体局在は見られなくなった。 以上の結果から、DDX17、特にp82は核小体とストレス顆粒を関連付けるタンパク質の一つであり、核小体-ストレス顆粒間の動態は天然変性領域と酵素活性の両方に依存していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画は、(Ⅰ)核小体とストレス顆粒の両方に局在するDEAD-boxタンパク質の選定、(Ⅱ)着目したDEAD-boxタンパク質のリボソーム代謝に対する寄与の詳細の解析、(Ⅲ)着目したDEAD-boxタンパク質の、ストレスに対する局在変化および細胞内動態の解析、(Ⅳ)着目したDEAD-boxタンパク質の細胞内局在に対する、ATPおよび自身の酵素活性の寄与の検証、の4つの項目から形成される。 これまでに、複数のDEAD-boxタンパク質を核小体とストレス顆粒の両方に局在する因子としての候補に挙げていたものの、現在までのところではDDX17を条件にあてはまるDEAD-boxタンパク質として選定することができた。DDX17にはp72とp82の2つのアイソフォームが存在し、p82のみに存在するアミノ酸領域の大部分は、液-液相分離を引き起こす原因の一つである天然変性領域と予測された。そこでp72とp82の細胞内局在や細胞内動態、またストレスに対する局在変化を比較検討することで、DDX17を介した核小体とストレス顆粒の機能的関連を明らかにすることを試みた。その結果、p72は主に核質に局在する一方、天然変性領域を余分に持つp82は核小体と核内のドット状構造に局在すること、p82の細胞内動態はp72のものと比較して遅いこと、ストレス顆粒にはp72の方が局在しやすい傾向があったこと、その酵素活性の欠損変異体はともにストレス顆粒に局在し、p82の核小体局在は消失したことが明らかになった。 これらの結果は、当初の計画からは多少の変更が生じているものの、研究目的である核小体とストレス顆粒の機能的関連を明らかにすることに大きく寄与するものであると考えられる。こうしたことから、本研究課題はおおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度では対象のDEAD-boxタンパク質としてDDX17のみに着目し、その2つのアイソフォームであるp72とp82を比較検討する形で解析を進めたが、今後は他のDEAD-boxタンパク質の選定も進める予定である。その上でまずはノックダウンや過剰発現の系を用い、対象のDEAD-boxタンパク質が核小体とストレス顆粒のどちらでリボソーム代謝のどの段階をどの程度制御しているのかを明らかにする。また、各種ストレスに対する対象のDEAD-boxタンパク質の局在変化や動態解析をまとめ上げ、着目したDEAD-boxタンパク質が核小体とストレス顆粒のどちらでストレス応答により寄与しているのかを明らかにする。さらに、着目したDEAD-boxタンパク質の細胞内局在に対する、自身の酵素活性や天然変性領域、またATPなどの小分子の寄与を明らかにする。以上の解析から得られる結果を統合し、DEAD-boxタンパク質による核小体とストレス顆粒の機能的関連の詳細を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度における物品費はほぼ計画通りに使用した一方、旅費やその他の経費において未使用額が生じた。それは、想定していたよりも旅費や英文校正費、また論文投稿費などが低く抑えられたためである。 生じた次年度使用額は大幅な研究計画の変更を可能にする規模のものではないため、研究計画の進行状況に応じて物品費として使用する計画である。
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