核小体とストレス顆粒はそれぞれ核と細胞質に存在する膜を持たないオルガネラ(membraneless organelles: MLOs)である。両者には、液-液相分離によって形成されるMLOsという構造上の、またリボソーム代謝とストレス応答に関与するという機能上の共通点がある一方で、その機能的関連は明らかになっていない。そこで本研究課題では、核小体とストレス顆粒の両方への局在が示唆されているRNAヘリカーゼのDEAD-boxタンパク質に着目し、その機能や動態を解析することで、核小体とストレス顆粒の間に潜む機能的関連の解明を目指した。 最終年度では、主に核小体に局在するDEAD-boxタンパク質の各種ストレスに対する局在変化を解析した。その結果、ストレス顆粒への目立った局在変化は見られなかったものの、特定のストレス条件下では一部核小体から核質への局在変化が観察された。観察された局在変化のメカニズムや生理的意義に関しては現在調査中である。 補助事業期間全体では、特にp72とp82の2つのアイソフォームを持つDEAD-boxタンパク質のDDX17の局在や動態の解析に注力した。その結果、①p82のみに存在するアミノ酸配列の大部分は、液-液相分離の要因となる天然変性領域と予測されること、②p72は核質にほぼ均一に局在するのに対し、p82は核質の凝集体と核小体に局在すること、③p82の細胞内動態はp72のものより遅いこと、④高浸透圧ストレスにより、p72、p82ともにストレス顆粒に局在するものの、ストレス顆粒に局在する割合はp72の方が高いこと、⑤酵素活性の欠損変異体では、p72、p82の両者ともにストレス顆粒に局在し、p82の核小体局在は見られなくなること、以上の5点が明らかになった。 以上より、DDX17、特にp82は核小体とストレス顆粒を関連付けるタンパク質の一つであり、核小体-ストレス顆粒間の動態は天然変性領域と酵素活性の両方に依存していることを示唆することとなった。
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