研究実績の概要 |
これまでの研究から, Caspase-3ファミリータンパク質であるDriceとDcp-1のうち, Dcp-1のみが細胞死非依存的にショウジョウバエの翅サイズを制御するとの結果を得ていた. そこで, DriceとDcp-1の機能的な違いを明らかにするために, CRISPR/Cas9法を用いてDriceとDcp-1のC末端それぞれにTurboIDをノックインしたショウジョウバエ系統を作出した. さらに, TurboIDによる近接依存性標識により, DriceとDcp-1それぞれの近傍に存在するタンパク質を評価したところ, 近傍タンパク質が異なることが明らかとなった. また, Dcp-1に特異的なカスパーゼの基質として, Acinusが報告されていた. そこで, 翅サイズに対するAcinus切断の寄与を検討した結果, Acinusの切断が翅サイズを制御する上で重要であることが明らかとなった. 以上の結果をまとめ, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌に論文を発表した. さらに, 作出したショウジョウバエ系統を用い, DriceとDcp-1のそれぞれの近傍に存在するタンパク質をMS解析により網羅的に探索した. その結果, 翅の前駆体組織である翅成虫原基において, DriceとDcp-1のそれぞれに特異的なタンパク質群の同定に成功した. また, 同様の解析をショウジョウバエの頭部において行い, 翅成虫原基とは異なる頭部特異的な近傍タンパク質群の同定に成功した. 以上の結果から, DriceまたはDcp-1特異的及び組織特異的な近傍タンパク質が存在することが確認され, それらがカスパーゼの細胞死依存的/非依存的な機能の制御とその発揮に関与している可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度では, 当初の目的としていた"Caspase-3ファミリータンパク質が細胞死非依存的にショウジョウバエ翅サイズを制御する分子機構の解明"を達成し, その成果を論文として発表することができた (Shinoda et al., PNAS, 2019). さらに, CRISPR/Cas9法を用いて作出した, DriceとDcp-1のC末端それぞれにTurboIDをノックインしたショウジョウバエ系統を用いて, DriceまたはDcp-1特異的及び組織特異的な近傍タンパク質が存在することを明らかにすることができた. 以上の結果を踏まえ, "近傍タンパク質がカスパーゼの細胞死依存的/非依存的な機能の制御とその発揮に関与する"という仮説を導くに至ったことから, 本研究課題は, 当初の計画以上に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
新たに導いた, "近傍タンパク質がカスパーゼの細胞死依存的/非依存的な機能の制御とその発揮に関与する"という仮説に立脚し, 今後の研究を進める. 具体的には, 翅成虫原基及び頭部で得られたDrice及びDcp-1特異的な近傍タンパク質の解析から, カスパーゼの新奇機能の発見を目指す. また, ショウジョウバエの成虫の脳では, 加齢依存的にカスパーゼの活性化及びアポトーシスが増加することが既に報告されている. 頭部に特異的なカスパーゼ近傍タンパク質に着目し, 加齢依存的なカスパーゼの活性化制御機構の解明を目指す. 一方で, TurboIDをノックインしたショウジョウバエ系統の解析を進める中で, そのボトルネックとなる部分も明らかとなってきた. 具体的には, 標識効率及び時間分解能の小ささが挙げられる. そこで, これらのボトルネックを解消する代替の解析法の導入も進める. 具体的には, TurboIDを融合したカスパーゼの大量発現及びAPEX2の導入を行う. 複数の近接依存性標識法を比較することで, ショウジョウバエに有用な近接依存性標識法を決定する.
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