研究課題/領域番号 |
19K16140
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高瀬 悠太 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (70756478)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生体内血管リモデリング / トリ胚 / 細胞挙動 / 血流ずり応力 |
研究実績の概要 |
血管内皮細胞において血流刺激の感知・応答に関わる分子群を探索・同定する実験を実施した。その結果、TGFβシグナリングと膜タンパクPlexinD1が血流刺激の感知分子として働くことが示唆された。また、細胞内カルシウム濃度の上昇が血流刺激に対する細胞応答(RhoA活性の変化およびそれに伴う細胞挙動)に関わる可能性を見出しており、生体内血管リモデリングにおける血管内皮細胞の血流感知・応答機構の全体像が明らかになりつつある。さらに、上記の解析に必須なトリ胚内皮細胞への局所的な遺伝子導入方法を確立し、この手法についての論文を出版した (Takase Y. and Takahashi Y., Dev. Biol., 2019)。 この他、血管リモデリング過程の細胞挙動を1細胞レベルで追跡できるライブイメージング解析系、および血管組織を高解像度で3次元的に捉えるのに適した血管と細胞核の染色・撮影手法の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、トリ胚血管網において血管リモデリングを左右別々に操作できる解析系(申請者が確立)を活用し、血管内皮細胞(以下、内皮細胞)における血流刺激に対する感知・応答分子群の探索・同定を実施した。そして、TGFβ阻害剤をリモデリング前の血管網に導入すると動脈へのリモデリングが阻害されることを見出した。反対に、活性化型TGFβ1タンパクを導入すると本来1本しかできない動脈が2本になることも分かった。これらの結果は、TGFβシグナリングが血流刺激に対する感知分子として働いている可能性を示唆している。またTGFβシグナリングの他に、膜タンパクPlexinD1が生体内の血管リモデリングにおいても血流刺激の感知分子として働くことや、血流刺激に対する内皮細胞の応答(RhoA活性の変化およびそれに伴う細胞挙動)と細胞内カルシウム濃度との間に関連性があることが見出されつつある。以上から、生体内血管リモデリングにおける内皮細胞の血流感知・応答機構の全体像が明らかになりつつある。さらに、上記の解析に必須なトリ胚内皮細胞への局所的な遺伝子導入方法を確立し、この手法についての論文を出版した (Takase Y. and Takahashi Y., Dev. Biol., 2019)。 この他、血管リモデリング過程における内皮細胞の挙動を1細胞レベルで撮影するために、共焦点顕微鏡(Nikon A1R)を用いたライブイメージング解析系を確立させた。また、血管組織の3次元構造を理解するために、血管・細胞核の染色方法と組織透明化法の組み合わせの最適化に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、当該年度の結果から見出された血流刺激の感知分子候補TGFβシグナリングやPlexinD1と、細胞内カルシウム濃度の変化や血流刺激の応答分子候補RhoAとの関連性を調べることを予定している。具体的には、RhoAレポーターGFP-rGBD(活性化型RhoA結合配列が付加されたGFP)や細胞内カルシウム指示薬Calbryteの導入と同時にTGFβシグナリングやPlexinD1の阻害/活性化を行い、感知・応答機構の連携を1細胞レベルで解析する。同時に、TGFβシグナリングの構成因子やPlexinD1の血管網内での発現パターンについて免疫組織染色やin situ hybridization法を用いて確認する。また血流刺激の感知・応答分子の網羅的探索として、九州大学・大川恭行博士の協力の元、血管組織のRNA解析を実施する。この際、血流刺激の感知・応答に関わる分子群候補として、血管リモデリングの前後や血流停止処理の有無で発現が変動するものに注目する。RNA解析で見つかった候補因子群については、当該年度と同様の解析系を用いて血管リモデリングおよび感知・応答機構における役割を明らかにする。
血流刺激の実体解明を進める研究計画については、流体ずり応力刺激装置を導入し、トリ胚血管網から単離した血管内皮細胞を用いたin vitro解析系を確立させる予定である。
また、動静脈間における血管リモデリングの共通性の解析については、静脈へとリモデリングする血管網に対して、TGFβやPlexinD1、RhoAなど動脈へのリモデリングに関与する分子群の阻害/活性化処理を行い、静脈へのリモデリングにも影響が現れるのかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来、該当年度中にin vitro培養下で血流刺激を与えることが可能な流体ずり応力刺激装置FlexFlow Microscopy Systemを購入し、血流刺激の実体解明を進めるための解析系を確立する予定だったが、想定する実験計画の実施には当初の見積もりより高い費用が必要だったため、研究計画を変更した。今年度に研究費を繰り越した上で別の流体ずり応力刺激装置を導入する計画を立てている。
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