研究課題/領域番号 |
19K16142
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒田 純平 大阪大学, 生命機能研究科, 特任研究員(常勤) (80726521)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コラーゲン / 細胞外マトリックス / ゼブラフィッシュ / 間葉系細胞 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
本申請研究は直線的に発達するヒレ骨が2分岐するメカニズムについてゼブラフィッシュを用いて明らかにすることを目的としており、大きく3つの課題を計画していた。 本年度では、課題1で計画していたin vitroでのアクチノトリキアを束ねるプロセスの再現について試み、ヒレ由来の間葉系細胞が単独でアクチノトリキアに直接巻きつき、これを束ねる性質があることを明らかにした。さらに、理化学研究所の岩根グループとの共同研究により、連続電顕法を用いて間葉系細胞がin vivoで実際に複数のアクチノトリキアに巻きつき束ねる様子の3D形態を観察することに成功した。以上の成果は国際雑誌であるFrontiers in Cell and Developmental Biology(査読あり)に掲載された。 課題2で計画していたin vivoでアクチノトリキアを束ねるプロセスの阻害実験は、間葉系細胞において特異的にアクチン骨格の重合を阻害する方法を用いて行った。この結果、幼生期においてアクチノトリキアの配向性が乱れる異常を誘発することに成功した。この効果を骨形成が起こる成体期まで持続させることが現段階では困難であったため、骨の形態を観測するには至らなかった。この結果についても上記の同論文として発表している。 また、これらの成果については国内で開催された第52回日本結合組織学会、第43回日本分子生物学会にて口頭発表を行うことで報告し、日本結合組織学会では若手研究者賞を受賞している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究では、3つの課題に分けて実験を行う計画を立てていた。課題1のin vitroでのアクチノトリキアを束ねるプロセスの再現については上記のように成果を論文発表・学会発表により報告することができた。Frontiers in Cell and Developmentで報告した論文はすでにアクセス数1800を超えており、国内外の研究者から注目されている内容となっている。また口頭発表を行った第52回結合組織学会では若手研究者賞に採択していただき、課題1の成果は国内学会では高く評価されたと言える。 課題2に関しても、間葉系細胞特異的にアクチン重合を阻害する系を確立することに成功しており、今後成体での特異的な阻害実験ができれば骨形成期の異常を観測することが可能になる。現在、新しいトランスジェニックゼブラフィッシュの作製を試みており、今後の研究課題となっている。 課題3に関しては、理化学研究所岩根グループとの共同で連続電顕法を用いてin vivoにおいて融合過程のアクチノトリキアを観測することに成功しており、現在この3D形態を解析中である。当初はゼブラフィッシュのアクチノトリキアを精製して質量分析を行うことで融合を促進する因子の同定を試みる計画でいたが、サイズが微小であるゼブラフィッシュのアクチノトリキアの精製が現段階では困難であり、成功には至っていない。代わりの案として、サイズが大きなアクチノトリキアを持つ種を現在探索しており、今後は別種でのアクチノトリキアからタンパク質を精製し、質量分析を行う計画をしている。
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今後の研究の推進方策 |
課題1に関してはほぼ達成できたと言える。課題2に関しては、幼生期において成功した間葉系細胞特異的なアクチン重合の阻害実験を今後は成体期において行う必要がある。必要なトランスジェニックゼブラフィッシュの作製はすでにスタートしており、F1系統が樹立され次第、骨の形態の観測を行う。またトランスジェニックゼブラフィッシュより間葉系細胞とアクチノトリキアを回収し、in vitroでの相互作用についてもライブイメージングにより観察する。これらの実験から、骨の分岐における細胞の物理的な作用の役割について明らかにしていきたい。残りの課題3に関しては、現在連続電顕法により観察した融合過程のアクチノトリキアの3D形態を解析中であり、融合過程のアクチノトリキアとその周囲の細胞の形態を詳細にすることで融合における細胞の関与について明らかにしつつある。また、アクチノトリキアの融合を促進する因子の探索の試料として、大きなアクチノトリキアを持つ種をいくつか候補と選び、当研究室で飼育を試みている。今後、これらの種より大きなアクチノトリキアを回収し、タンパク質精製を行い質量分析を試みる計画をたてている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外の学会に参加のために旅費を割り当てていたが、参加学会はすべてオンライン開催となったため、旅費を減額した。 理化学研究所岩根グループと共同で連続電顕観察を数回に分けて行う計画をしていたが、計画を変更し出張回数を減らしたため、出張費に差額が生じている。 また、研究課題3で計画していたプロテオーム解析の実験はアクチノトリキアの精製が遅れており実行されていない。
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