研究課題/領域番号 |
19K16146
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岩崎 美樹 北里大学, 一般教育部, 非常勤講師 (70792563)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 骨組織 / 骨芽細胞 / パターン形成 / 組織間相互作用 |
研究実績の概要 |
ゼブラフィッシュの骨組織(鱗)に着目し、骨の形態および大きさを制御する機構を明らかにする。これまで鱗の骨基質の下面と後縁に2種類の骨芽細胞(中央細胞・辺縁細胞)が存在することを示した。 当該年度では、ゼブラフィッシュ鱗の再生時における骨幹細胞・骨芽前駆細胞の探索を試みた。その過程で鱗を構成する複数の細胞でマトリックスメタロプロテアーゼ9 (mmp9)が発現することを見出した。これらの細胞は、骨基質の上面に存在し多様な形態を示した。また、鱗の特徴的な形態である溝状(groove)および隆起線(ridge)に沿って存在した。mmp9は、マクロファージや好中球などの骨髄系由来の免疫細胞や破骨細胞で発現することが知られている。そこで、マクロファージ阻害剤(クロドロン酸リポソーム)処理を行ったが、mmp9-GFP発現細胞に変化は見られなかった。また、mmp9-GFP発現細胞では破骨細胞のマーカーであるTRAP活性も見られなかった。したがって、これらの細胞は骨髄系由来細胞ではないと考えられた。いずれにしても、これらの細胞は、mmp9を分泌し細胞外基質(ECM)をリモデリングすることにより、鱗の形態を維持している可能性がある。 次に、鱗の辺縁骨芽細胞に特異的にGFPを発現するエンハンサートラップ系統(C13)の解析を行った。結果、カルシウムイオン輸送に関与する遺伝子Ncx4b(Sodium/Calcium Exchanger)をトラップしていた。Ncx4bは、初期胚(3dpf)の最初に出現する膜性骨である擬鎖骨および鰓蓋骨の骨芽細胞で発現がみられた。また、再生鱗においては再生24hrで発現がみられ、48~72hrで発現が増大した。再生96hrでは、発現が鱗辺縁に局在した。つまり、骨形成および再生の初期にカルシウム輸送が重要な役割を担うことが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、鱗の骨幹細胞、骨芽前駆細胞の同定を目指していたが、現時点ではマーカーを得られていない。一方、骨基質に付着する2種類の細胞を見出した。mmp9発現細胞は、鱗の特徴的な溝や突起に付着しており、これらのECMリモデリングに働いていると考えられた。次に、鱗辺縁骨芽細胞はNcx4bを発現しており、このことは、この細胞がカルシウムの輸送に特化している可能性が考えられた。なお、これらの遺伝子は初期発生過程でも発現をしている。mmp9は頭蓋の舌顎骨(Hyomandibular)の孔(Foramen)を通り抜ける神経軸索(顔面運動神経・側線神経)特異的に発現し、Ncx4bは、最も早く骨化する擬鎖骨(cleithrum)と鰓蓋骨(opercular)で発現することがわかった。今後、初期胚でのこれらの遺伝子の機能解析も視野に入れ、舌顎骨、鰓蓋骨、擬鎖骨の発生過程についての解析のための系統やマーカー(抗体)を準備した。
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今後の研究の推進方策 |
鱗と舌顎骨におけるmmp9細胞の局在についての共通点がある。それぞれの細胞は、いずれも骨化していない領域(鱗の溝状、舌顎骨の孔)に存在する。つまり、これらの細胞はmmp9を分泌しECMのリモデリングを行い、それぞれの領域にカルシウムが沈着しないようにしている可能性がある。これらの細胞は、いずれも神経軸索のある領域と一致しており、軸索を取り囲むグリア細胞である可能性が高い。今後の方針として、遺伝子操作の容易な初期胚でのmmp9の機能解析を行い、次に鱗での実験を行う予定である。まずmmp9細胞の同定を行う。次にグリア細胞を標識するErbb2:Gal4系統(gSAGFF202A)とmmp9-GFP系統を掛け合わせ、mmp9-GFP;Erbb-RFPを作成し、初期胚の舌顎骨形成過程におけるグリア細胞の動態を調べる。さらに、グリア細胞を欠損するErbb2変異体およびmmp9変異体(他機関から入手予定)、軸索をneurogenin1阻害により除去した際の舌顎骨の形態を調べ、グリア細胞および神経軸索と骨化の関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゼブラフィッシュ鱗(骨)の骨芽細胞で発現する遺伝子を網羅的に探索するためにRNA-seqを行うことを当初計画していた。しかし、鱗の再生時における骨幹細胞・骨芽前駆細胞の探索の過程で複数の細胞がマトリックスメタロプロテアーゼ9 (mmp9)を発現することを見出した。mmp9に着目し解析を進めたため、網羅的な遺伝子の探索を当該年度に行わなかった。そのため次年度使用額が生じた。次年度は、mmp9の機能解析を行うに当たり、複数の変異体(mmp9, Erbb2)およびトランスジェニック系統を入手(購入も含む)し解析を進める。また、機能阻害実験を行うにあたり、阻害剤、モルフォリノオリゴおよびCRISPR-cas9等に必要な合成オリゴを購入する。
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