研究課題/領域番号 |
19K16150
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大沼 耕平 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (70774876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホヤ幼生 / 脳 / 細胞系譜 / 発生メカニズム |
研究実績の概要 |
中枢神経系の細胞がたった数百しかないホヤ幼生は、行動を生み出す神経回路の形成と働きを、個々の細胞レベルで理解できる優れたモデルである。我々は近年、ホヤ幼生の脳の細胞系譜 (分裂時期・回数や動態)を調べた過程で、脳の左右非対称性が従来の報告よりも複雑であることを見出した。しかし、他の動物も含め、左右非対称な脳を生み出す発生メカニズムは よくわかっていない。そこで本研究では、まずホヤ幼生の脳の細胞系譜を完全に明らかにした上で、脳の発生過程で働くすべての転写因子の発現パターンを単一細胞レベルで明らかにする。そして、脳の神経細胞に注目し、その発生に必須な転写因子をスクリーニングし、それらの因子がつくる遺伝子発現制御ネットワークの解明を目指す。 2020年度は、すでに細胞系譜を明らかにしたドーパミン産生細胞の発生メカニズムを調べた。その結果、ホヤ幼生の脳にあるドーパミン産生細胞の発生には、MAPK経路とは独立して転写因子Otxが必要であることを明らかにした。また、ホヤ胚ではephrin-Eph経路がMAPK経路の活性化を制御することが知られているが、ドーパミン産生細胞の発生においてMAPK経路の活性化にephrin-Eph経路が関わっていないことを示唆する結果を得た。 また、ホヤ幼生脳のレンズ細胞では特異的に発現する遺伝子は知られていなかったが、その分子マーカーとしてGbe1遺伝子を見出した。その発現パターンを指標に、レンズ細胞の細胞系譜を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホヤ幼生脳には、主に4種類の神経細胞(グルタミン酸作動性、GABA /グリシン作動性、コリン作動性ニューロン、およびドーパミン産生細胞)がある。2020年度終了時まで、ドーパミン産生細胞の細胞系譜を完全に明らかにし、その発生メカニズムも分かりつつある。グルタミン酸作動性ニューロンとGABA/グリシン作動性ニューロンの細胞系譜解析についてはほぼ完了し、前者については転写因子Rxがその発生に必要であることも明らかにしている。コリン作動性ニューロンについては細胞系譜をまだ解析し終えていないが、終わる見通しがついている。また、コリン作動性ニューロンの発生には、Nodalシグナリングと転写因子FoxBが重要であることを示唆する結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
カタユウレイボヤでは、多くの転写因子の発現パターンが報告されている。しかし、これらのデータは卵膜除去胚から得られているため、正常な脳胞系譜での発現パターンはわかっていない。そこで、神経板期以降の卵膜付きの胚を用いて、脳胞系譜で発現する全143個の転写因子の発現パターンを、蛍光ISHにより、細胞系譜解析で得られた情報を基に 単一細胞レベルで調べる。次に、各種神経細胞マーカーの発現パターンも調べ、各ニューロンの系譜で発現するすべての転写因子をリストに挙げる。この結果をもとにして各ニューロンの系譜で発現する転写因子を特定し、その中で各ニューロンの発生に重要な転写因子をノックダウンまたは過剰発現により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で、多くの学会がオンライン上で行われ、直接会場に行くことがなくなった。そのため、旅費の使用がなくなったため、次年度使用額が生じた。次年度(2021年度)もオンライン上での学会開催が予想されるため、今回生じた持ち越し金は、消耗品購入や論文投稿などの他の費目に使用する予定である。
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