研究課題
中枢神経系の細胞がたった数百しかないホヤ幼生は、行動を生み出す神経回路の形成と働きを、個々の細胞レベルで理解できる優れたモデルである。我々は近年、ホヤ幼生の脳の細胞系譜 (分裂時期・回数や動態)を調べた過程で、脳の左右非対称性が従来の報告よりも複雑であることを見出した。しかし、他の動物も含め、左右非対称な脳を生み出す発生メカニズムは よくわかっていない。そこで本研究では、ホヤ幼生の脳の細胞系譜を完全に明らかにした上で、脳の発生に重要な遺伝子発現制御ネットワークの解明を目指す。すでに細胞系譜を明らかにした、ホヤ幼生の脳胞にあるレンズ細胞では、特徴的なミトコンドリアの細胞内配置が知られている。そこで2021年度は、レンズ細胞の発生機序を明らかにする一環として、胚や幼生の細胞におけるミトコンドリアの局在や役割を調べた。ミトコンドリアを構成するタンパク質に対する抗体を用いて免疫蛍光染色をしたが、レンズ細胞系譜でのミトコンドリアの局在は不明瞭であった。しかし、脳胞にある2個の色素細胞で免疫染色の高いシグナルが得られたこと、また幼生の体幹部の中央ではそのシグナルが著しく低いことがわかり、幼生を構成する細胞の種類によってミトコンドリアの量が異なることが示唆された。また、ミトコンドリアの働きを阻害する試薬をいくつかホヤ胚に処理したところ、ミトコンドリアの分裂阻害剤を処理した時のみに色素細胞の色素形成が阻害された。以上の結果から、ミトコンドリアの分裂が脳胞にある色素細胞の発生に重要であることが示唆された。今後、ミトコンドリアダイナミクスが色素細胞の発生にどう関わるかを調べるとともに、レンズ細胞の発生とミトコンドリアの関係およびそれらを制御する遺伝子制御ネットワークを解析する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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