研究課題/領域番号 |
19K16153
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
新田 昌輝 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 特別訪問研究員 (50829900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 平面内細胞極性 / 恒常性維持 / 卵管 |
研究実績の概要 |
本研究では、大きく成長した組織において、幹細胞から供給された細胞がどのようにして組織の向きを読み取り、組織の向きに沿った平面内細胞極性(Planar Cell Polarity; PCP)を獲得するか明らかにすることを目指した。卵管の上皮組織を構成する多繊毛細胞は卵巣-子宮軸に沿って繊毛を動かすといったPCPを示す。本年度はマウス卵管を題材として以下の項目の研究を進めた。 1)発生過程では、細胞境界上でのPCP因子の偏った局在の形成がPCPの獲得に必要かつ十分である。そこで、成体の組織でも、組織に供給された細胞がPCP因子の偏った局在を獲得するのではないかと考えた。卵管上皮の多繊毛細胞の分化過程でPCP因子の細胞内局在を調べたところ、繊毛の基部構造である基底小体が細胞の頂端面に移行した段階から細胞境界上のPCP因子の局在が顕著になることが明らかになった。 2)多繊毛細胞の分化過程でPCP因子の量や局在を制御する分子を探索するために、PCP 因子の量や局在の変化と相関して発現量が変化する遺伝子に着目したスクリーニングを進めた。本年度は卵管上皮組織の single-cell RNA sequencing (scRNA-seq)を行い、卵管上皮細胞を構成する細胞種やそれぞれの細胞種での遺伝子発現の情報を得た。一方で、scRNA-seq のデータから多繊毛細胞の分化に従って発現量が変化する遺伝子が検出できたものの、検出された1細胞当たりの遺伝子の総数が今後計画しているスクリーニングには不十分だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で記した通り、当初予定していた計画はほぼ順調に進められた。2)については、検出された細胞当たりの遺伝子数が少なかったため、本研究で見出した多繊毛細胞の各分化段階のマーカー遺伝子を利用し、FACSにより各分化段階の細胞を回収し、RNA sequencing を行うことを計画している。また、scRNA-seqでは多繊毛細胞の分化過程で発現変動する遺伝子や、分泌細胞が遺伝子発現の違いから複数の細胞種に分類できることを見出した。卵管上皮組織を構成する細胞種やその分化過程は未だ理解が進んでおらず、本研究のscRNA-seq で得られた情報は生殖に重要な器官である卵管の細胞生物学の発展にも大きく寄与すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
多繊毛細胞の分化過程でPCP因子の偏った局在が形成される仕組みを調べるため、①卵管器官培養系を用いた、多繊毛細胞の分化過程でのPCP因子の動態の経時観察と② PCP因子の動態を制御する分子のスクリーニングを進める。②については、まず多繊毛細胞の分化過程の細胞をFACS(fluorescence-activated cell sorting)で単離して RNA sequencing により遺伝子発現情報を解析することを計画している。多繊毛細胞の分化過程で発現変動する遺伝子が得られれば、2次スクリーニングとしてそれらの遺伝子の機能を卵管由来の培養細胞株を用いて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
scRNA-seqにかかわる実験が当初の想定より少ない予算で進んだことと、scRNA-seq からRNA sequencingを実施する計画に変更したことが主な理由である。次年度は当初の計画の実験に加えRNA-sequencing を実施するので、そのための予算を配分する。
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