卵管上皮組織の多繊毛細胞は一方向的に繊毛を動かし、卵を子宮へと輸送する。このような器官の向きに沿った上皮細胞の細胞極性は平面内細胞極性(Planar cell polarity; PCP)と呼ばれ、様々な上皮組織の機能を支えている。上皮組織ではダメージを蓄積した細胞が排除され、幹細胞から新たに細胞が供給されることにより組織の恒常性が維持される。このような上皮組織の恒常性維持過程において、PCPが維持される仕組みは明らかにされていない。上皮組織に新たに供給された細胞(新生細胞)はどのようにして器官の向きを読みとり、PCPが維持されるのだろうか。本研究では、個体の一生を通じて細胞の入れ替わりが起こるマウスの卵管上皮組織を実験系とし、新生細胞が器官の軸に沿った極性を獲得する分子機構の解明を目指す。 PCPの形成にはPCP因子の細胞境界上での偏りが必要であり、卵管上皮では多繊毛細胞の分化過程でPCP因子の偏りが生じる。新生細胞がPCPを獲得する際のPCP因子の動態を明らかにするため、卵管を人為的に損傷させ、その修復過程におけるPCP因子の動態を解析した。卵管では損傷により失われたPCP因子の一方向的な局在が、損傷修復過程で再生することを見出した。さらに卵管の上皮組織でPCP因子をライブイメージングできる実験系を立ち上げることにより、PCPの再生過程におけるPCP因子の動態を詳細に解析することが可能となった。また、多繊毛細胞の分化過程における遺伝子発現を解析したところ、分化に伴い発現変動する遺伝子を多く見出した。卵管上皮の培養細胞を用いて、これらの遺伝子の中からPCP因子の細胞境界上の局在に必要な遺伝子を同定する実験系の立ち上げを進めた。
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