研究課題
機能的な臓器の構築には、内腔を構成する上皮組織と周縁の間充織による相互作用が不可欠である。しかしながら、上皮組織に比べて、間充織の役割や発生の仕組みについては不明な点が多く残されていた。申請者は、マウス気管をモデルとして、臓器管腔の形成システムの解明を目指し、検討を進めてきた。最近になって、気管の正しい長さと太さの制御には間充織組織の分化・極性化による段階的な制御が必須であることを報告した。また、間充織細胞の極性化にはWntシグナルの活性化が必要であった。さらに、この間充織におけるWntシグナルの活性化は、上皮組織由来のWntリガンドによって引き起こされることを示した。上皮間充織相互作用による間充織極性化の分子機構を解明することを目的とし、本年度の検討では、ヒトES細胞から間充織を多く含む呼吸器オルガノイドを作成することにより、上皮―間充織相互作用を検証可能な実験系の基盤構築に取り組んだ。初めに、呼吸器上皮細胞および間充織細胞をより高効率に誘導するために、発生に必要な増殖因子の濃度・添加期間について検討を行った。その結果、RAおよびHHアゴニストの添加時間を調節することによって、呼吸器間充織の誘導効率を改善することができた。次に、これらの作製した細胞を融合することによって、間充織を豊富に含む呼吸器オルガノイドの作製に成功した。今後は作製したオルガノイドにおける間充織細胞の極性化過程を評価するとともに、Wntシグナルに着目し、極性化の分子機構の解明に取り組む。
3: やや遅れている
本年度は、ヒトES細胞からの分化誘導系を活用して、上皮間充織相互作用を検証可能な呼吸器オルガノイドの作製に主眼を置いた。先行研究において、ヒトES細胞から呼吸器上皮細胞および間充織細胞を誘導することに成功している。まず、分化誘導の効率を高めるため、種々の増殖因子について検討を行った。その結果、レチノイン酸ならびにHHアゴニストの添加時間を延長することによって、間充織細胞の誘導効率が亢進することが分かった。次に、作製した上皮細胞と間充織細胞を融合することによって、より生体の呼吸器に近い、オルガノイドの作製に取り組んだ。上皮細胞と間充織の細胞数や融合する環境について検討した結果、間充織細胞を豊富に含んだ呼吸器間充織を樹立することに成功した。
今年度の検討において、ヒトES細胞から、間充織細胞を含む呼吸器オルガノイドを作製することができた。今後は、上皮細胞と間充織細胞の比率を操作することで、より生体に近い構成の呼吸器オルガノイドを作成する。さらに、上皮細胞が間充織細胞の極性化に与える影響を検証する。細胞の極性を反映した局在を示すゴルジ体の局在を調べることのよって、上皮細胞の位置と間充織細胞の極性化の方向性について決定する。先行研究において、間充織の極性化にはWntシグナルが関与していることを明らかにしている。そこで、Wntシグナル構成因子のオルガノイドにおける発現パターンを明らかにする。また、阻害剤を用いた検討により、ヒト呼吸器発生の過程における間充織極性化の分子機構に迫る。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Nature communications
巻: 11(1) ページ: 4158
10.1038/s41467-020-17968-x.
巻: 11(1) ページ: 4159
10.1038/s41467-020-17969-w.