研究課題/領域番号 |
19K16160
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田中 若奈 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 助教 (10725245)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腋芽幹細胞 / 腋芽メリステム / イネ / ブランチ / 分げつ |
研究実績の概要 |
(1) 腋芽幹細胞の空間的な新生パターンを制御するメカニズムの解明 野生型において、ブランチは必ず葉腋に形成される。一方、tillers absent3 (tab3) 変異体では、ブランチが必ずしも葉腋に形成されないことが予備的な観察により判明していた。この表現型から、tab3 変異体では、腋芽幹細胞の空間的な新生パターンが乱れていると推測されていた。本年度は、この仮説を検証するための解析を実施した。 播種後1ヶ月の植物体のブランチ数を野生型と比較した結果、tab3 変異体において、ブランチ数が有意に減少していた。tab3 変異体の 90% 以上が、ブランチを全く形成しなかった。ブランチが減少する原因を探るため、tab3 変異体の腋芽を観察した結果、多くの場合、腋芽が異常な位置に存在していることが判明した。重篤な場合は、腋芽の形態が損なわれていた。走査型電子顕微鏡により腋芽の発生過程を解析した結果、腋芽メリステムの形成が完全に阻害されている場合に加えて、腋芽メリステムの形成が途中で停止している場合も観察された。以上から、TAB3 遺伝子が、腋芽幹細胞の空間的な新生パターンを制御している可能性が示唆された。 (2) 腋芽幹細胞の新生を制御する新規遺伝子の同定 以前私たちは、TAB1-FON2 経路が、腋芽メリステムの形成に必須な役割を担っていることを明らかにした。本年度は、花メリステムにおいて FON2 の受容体として機能している FON1に着目して研究を実施した。 fon1 単独変異体の表現型解析や、fon1 tab1 二重変異体を用いた遺伝的相互作用の解析、FON1 遺伝子の時空間的発現パターンの解析から、FON1 遺伝子は腋芽幹細胞の新生には関与していない可能性を示唆した(Tanaka and Hirano, Cytologia, 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的にほぼ計画どおりに研究を遂行できている。 上記の tab3 変異体の解析によって、本研究の目的の1つである腋芽幹細胞の空間的な新生パターンを制御するメカニズムが明らかになりつつある。また、FON1 遺伝子の機能解析によって、腋芽幹細胞の新生に関する新しい知見をもたらすことができた。しかし、TAB3 遺伝子の分子機能の解明に向けての実験はやや遅れている。tab3 変異体を用いて RNA-seq を実施する予定であったが、tab3 変異体では胚発生過程にも何らかの異常が生じているようで、個体数を十分に確保できず、腋芽のサンプル採取に苦戦している。
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今後の研究の推進方策 |
・腋芽幹細胞の新生を制御する新たな因子の同定を目指して行っている、ブランチを形成しない tab2 変異体の解析においては、原因遺伝子候補を見出している。2021度は、原因遺伝子候補の確認(相補性検定)を行うと同時に、幹細胞マーカー遺伝子などの発現パターン解析を通じて、腋芽幹細胞新生における TAB2 遺伝子の作用機序を明らかにする。 ・RNA-seq に用いる tab3 変異体サンプルを確保するため、tab3 変異体の弱いアレルを作出する。そして、腋芽のサンプル採取および RNA 抽出・精製を実施する。 ・イネの腋芽幹細胞の新生におけるサイトカイニンの役割を明らかにするため、引き続き、サイトカイニン合成に関わる LONELY GUY 遺伝子に着目して解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた RNA-seq のための tab3 変異体のサンプル採取やRNA 抽出・精製が実施できなかったため、未使用額が生じた。これらの実験は次年度進める予定である。
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