研究課題/領域番号 |
19K16161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神保 晴彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50835965)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 光阻害 / ホスファチジルグリセロール / シアノバクテリア / D1タンパク質 / 光化学系II |
研究実績の概要 |
本研究の目的である、光化学系II(PSII)の光阻害における膜脂質の役割の解明について、本年度は特にリン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)に着目して研究を行った。PGのsn-1位あるいはsn-2位に脂肪酸がエーテル結合あるいはエステル結合した人工合成PGを、PG合成欠損変異体であるpgsAに添加して培養し、1500 μmol photon m-2 s-1 の光条件下においてPSII光阻害への影響を観察した。強光照射をする前に特にPSII活性に差は見られなかった。しかし、sn-2位がエーテル結合したPGを添加した時のみ、それぞれエステル結合をしている合成PGあるいはsn-1がエーテル結合をしている合成PGを加えたときに比べて、PSII光阻害が促進した。さらに、タンパク質合成阻害剤を添加して光損傷のみの過程を解析をしたところ、どの細胞にも差が見られなかったことから、 PGのsn-2位のエーテル結合がPSIIを修復する過程を阻害していることが明らかとなった。さらに、35Sでラベルされたメチオニンとシステインを用いて、PSIIの反応中心タンパク質であるD1タンパク質の分解速度を測定したところ、sn-2がエーテル結合しているPGを添加した株ではそのほかの細胞に比べて、D1タンパク質の分解が遅延していた。この時、D1タンパク質の合成速度に差は見られなかった。以上の結果から、PGのsn-2位に結合している脂肪酸が分解されることでD1の分解が促進し、損傷したPSIIの修復を促進していることが明らかとなった。本結果をそれぞれ参加した国内学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、光化学系II(PSII)の光阻害における膜脂質の役割を明らかにする。本年度は、特にリン脂質であるホルファチジルグリセロールに着目して研究を行い、PGのsn-2位に結合した脂肪酸が分解されることでD1タンパク質が分解されることを明らかにした。以上の結果は、これまでのPSII修復過程に新しい機構を示す結果であり、本研究の進度は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、PGのsn-2位に結合した脂肪酸が分解されることでD1タンパク質の分解が促進されることを明らかにした。今後はPGの分解を担うホスホリパーぜの同定とその酵素活性制御について研究を進展させていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた植物生理学会がコロナウイルスの影響により、中止になり旅費として計上されなかった。次年度は、学会が既にキャンセルされているものが多いため、物品費として使用する。
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