光合成には光が必要だが、過剰な光は光合成系を損傷する。野外植物の曝される光はその強度が激しく変動しており、変動光は葉緑体の光化学系Iを阻害する。光化学系Iを保護には、植物自身がもつ光合成代替電子伝達経路の働きに加えて、太陽光に豊富に含まれ光化学系Iのみを駆動する遠赤色光の存在下で完全に達成されることを示してきた。本申請研究は、光合成に直接寄与しない遠赤色光が、変動光下の光合成に与える影響解明することを目的に進めてきた。 遠赤色光による変動光光阻害の回避だけなく、遠赤色光の補光が変動光中の光合成に与える影響についても精査した。モデル植物のシロイヌナズナに、野外で頻繁に観察される変動光を模した人工変動光を照射したときの光合成応答を遠赤色光の有無で比較した。その結果、光合成励起光の強光下では遠赤色光の補光効果は見られなかったが、弱光期間中の光合成速度を増加させる効果があることが分かった。この遠赤色による光合成促進は、定常光下ではほとんど見られず、変動光下でのみ顕著になった。さらに、強光下で活性が増大した過剰光の熱散逸機構が、弱光+遠赤色光下で速やかに解消されたことも光合成増大につながった。この光合成促進は、遠赤色光が葉緑体チラコイド膜の膜電位に影響を与え、プロトン駆動力を大きくしていたことが原因の一つであった。 遠赤色光下でプロトン駆動力を大きくする機構を解明するために、葉緑体チラコイド膜に存在するイオン輸送体の欠損体を用いて解析を進めた結果、プロトン・カリウムの共輸送体KEA3が関与することが分かった。
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