NPR1依存的に制御される標的転写因子のDNA結合領域をゲノムワイドに決定するために、35S:NPR1-GFP植物を用いてSA処理、及びSAとJA共処理のChIP-seq解析を行った。NPR1の標的遺伝子のGO解析を行った結果、興味深いことにSAシグナルだけでなく、細胞周期、代謝系や他のホルモンシグナルなど、多様な細胞応答も制御する可能性が示唆された。そこで、得られたプロモーターのモチーフ解析の情報をもとに、当該転写因子が介在する情報伝達経路を推定し、T-DNA挿入によるノックアウト系統に対して表現型の確認を進めている。特に興味深いNPR1の標的配列として、bHLH転写因子の認識配列であるG-box(CACGTG)が検出された。G-boxは、JAシグナルを正に制御するMYC転写因子の結合配列として知られており、これまでのNPR1と転写因子の相互作用スクリーニングにより、NPR1はMYC転写因子と結合することを明らかにしている。既知のChIP-seqデータを利用して、MYC2とMYC転写因子に結合するメディエーター複合体の構成要素であるMED25のゲノム上での分布をNPR1の局在位置と比較した結果、NPR1はこれらJAシグナルの制御因子と同じ領域に分布することが明らかになった。さらに、タバコを用いたレポーターアッセイにより、MED25/MYC2複合体によるLOX3pro:LUCの活性をNPR1は抑制することを明らかにした。以上の結果から、多様な環境応答機構とのクロストークにおいて、NPR1は標的転写因子と相互作用し、その転写活性を負に調節することが強く示唆された。また、本研究によって、長く不明であったSAとJAのクロストークの分子機構が明らかになった。
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