研究課題/領域番号 |
19K16166
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉竹 良洋 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (10839179)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖細胞形成 / 転写因子 / エピジェネティクス / 環境応答 |
研究実績の概要 |
環境情報を適切に読み取り、配偶子(生殖細胞)を着実に形成することは“種”の確立を可能とし、進化の原動力となった。日の長さ(日長)は、この環境情報の主要な因子の1つである。 基部陸上植物である苔類ゼニゴケを用いて、この日長に応答しておこる生殖細胞系列分化制御の分子動態を明らかにする。生殖細胞系列分化のマスターとなる転写因子を単離したことからゲノム冗長性の少ないゼニゴケの特徴を活かして迅速かつ効率的にそのメカニズムを解くことが期待できる。最近とくに、本因子の発現制御には日長(環境)シグナルをエピジェネティックな制御に変換するシステムが介在する可能性を示唆するデータを得た。しかし、 被子植物も含めた植物種を用いた研究例においてもリプログラムを誘導する相転換のマスタ ー因子(フロリゲン)の発現制御に伴うクロマチンダイナミクスは、厳密な管理の下で行われるものと考えられるが、その詳細は依然不明である。本研究では、基部陸上植物を用いた 解析を通じて、1) 新規因子の発見を含めた制御機構の全体像を明らかにすることで見出され る“相転換の本質”を追求し、2) 被子植物と苔類の比較解析を通して、陸上植物の環境情報と有性生殖をつなぐメカニズムの普遍性と多様性について考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたRNA-seq解析が順調に進み、薬剤処理かつ短時間で発現誘導されるbHLH型転写因子とAP2型転写因子の単離に成功した。各遺伝子の生殖細胞系列分化への寄与は現在のところ不明であるが、CRISPR/Cas9による遺伝子破壊株の作成を行っており、現在その表現型を解析している。また、セルソーター (FACS; fluorescence-activated cell sorting) による核単離の実験系を応用することによりゼニゴケ におけるChIP-seq解析の実験系の開発についても成功した。現在、解析対象である転写因子の結合サイトの解析も行っており、前述のRNA-seq解析と組み合わせることにより、精度の高い直接標的となる候補遺伝子の単離に成功するものと期待している。 またプロメガ 社の高感度なタンパク質量定量系であるHiBITシステムを植物研究に応用することに成功した。これまで、解析対象となる転写因子の抗原ペプチドから抗体を作成し検出を行なった他に、エピトープタグを融合したタンパク質をゼニゴケに発現させてその検出を行なったが、いずれも検出には至らなかった。そこでさらに高感度であるHiBITシステムを導入することでその課題を克服できた。このため研究当初から期待された周囲環境によって変動するタンパク質の挙動実態を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ChIP-seq解析を進めることで、解析対象である転写因子のシス因子の解析や直接結合して制御すると考えられる遺伝子を網羅的に探索する。また逆遺伝学的手法を組み合わせることで、遺伝的な関係性についても考察する。 またセルソーター (FACS; fluorescence-activated cell sorting) による核単離の開発にも成功していることおり、単離した核よりRNA抽出を行い、RNA-seq解析を行った。そのプロファイルについて主成分解析(PCA)を行うとFACSを用いない方法と極めて酷似しており、FACS操作による影響は小さいと考えられる。そのため、今後一細胞解析に向けた実験にも着手する。一細胞解析により生殖細胞系列の系譜の詳細が明らかになることで、環境因子と生殖細胞分化との密接な関係がより高解像度で明らかになるものと期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたセルソーターにおける実験系の開発に計上していた修理とランニングコストを実験系を簡素化・高効率化することに成功したため使用額を圧縮することができた。また実験の多くの予算を占めていた抗体の使用量を再度精査することで、より低濃度でも使用可能であることが判明したため。
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