研究課題/領域番号 |
19K16170
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
波間 茜 (久保田茜) 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70835371)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 花成 / 光周性 / 光受容体 / 概日時計 |
研究実績の概要 |
適切なタイミングでの花成は、植物の生存戦略としてだけでなく農業においても重要である。花成ホルモンフロリゲンをコードするFT遺伝子の発現は、これまでの実験室条件では、夕方に1回のみであり、そのことを前提とした基礎・応用研究が進められてきた。申請者らは、野外条件においてFTは夕方だけでなく朝方にも発現しており、花成に重要な役割を果たしていること、朝夕のFTの発現誘導には、光と温度が重要であることを見出したものの、具体的な分子基盤については未解明であった。そこで本研究では、光のうち日長に着目し、光シグナルによって朝にFTが誘導される分子メカニズムの解明を目的とした。光照射のタイミングを変化させ、植物をいわば「時差ボケ」状態においてFTの誘導が変化するかを解析し、朝FTの誘導が顕著に起こる時間帯を特定するとともに、FTの発現と時計遺伝子の発現変化の関連性を解析することで、概日時計が朝FTの発現制御に関与する可能性について検証した。その結果、朝FTの誘導は主として光シグナルによって決定づけられており、概日時計はその誘導度の調節に関与することが示唆された。また、FTの転写促進因子であるCOの転写・翻訳制御によって、概日時計と光による朝FTの誘導を説明し得ることを見出した。これらの結果は、概日時計がFTの誘導の有無を決めるとする既存の花成制御機構とは異なる点も多いため、これまで広く受け入れられてきた季節性花成制御モデルにおける概日時計の役割については再考の必要性があると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、明暗比や日長などを変えた様々な時差ボケ条件において、花成制御遺伝子および概日時計関連遺伝子の発現を網羅的に解析した。その結果、時差ボケの種類によって概日時計の発現変化が大きく異なること、概日時計の位相変化には、特定のタイミングの光照射が重要であることを明らかにした。これらの結果を基に、光および概日時計を介した朝FT誘導を説明する新たな花成制御モデルを考案することができた点は、大きな進捗である。また、時差ボケ条件における野生株の解析だけにとどまらず、FT制御の主要な因子であるCOの転写・翻訳プロセスに対して、光及び概日時計がどのような影響を与えるか、具体的な分子メカニズムが一部明らかにできた。現在、得られたデータを基に投稿論文を執筆中であるため、計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの解析により、時差ボケ時の位相変化に興味深い特徴を示す時計遺伝子を絞り込むことができた。一方で、これらの大半が転写制御の解析にとどまっており、タンパク質の安定性・翻訳後修飾などに対する光シグナルの影響などが評価しきれていない。また、変異体を用いた時差ボケ時の表現型解析についても一部未完了であるため、令和4年度はこの2点を重点的に解析を進める。令和3年度に樹立した、時計遺伝子およびCOのレポーター株を用いることで、より高い時間解像度で時差ボケ時の転写・翻訳産物の発現変動を解析するとともに、データの取りまとめ及び学術誌への論文投稿を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により共同研究先への渡航および現地での生化学実験の見通しが立たないことから、現地で予定していた網羅的な免疫沈降および質量分析を主体とする生化学実験を、所属機関で行うことができる免疫沈降実験に縮小し実施することとした。すでに時差ボケ時の花成誘導に主要な役割を果たす因子のタグラインや生物発光を利用したレポーター株は樹立済みであるため、令和4年度はこれらの形質転換体を代表的な時差ボケ条件で解析することで、時差ボケ時の花成応答について、概日時計から花成応答までのシグナル伝達経路の全容解明を目指す。
|